第27話3

文字数 838文字

 無言のままときが過ぎる。

 最初から居丈高な態度で来る相手に機嫌よく応じる必要はない。

 そもそもこいつは翠寿を怯えさせた。それだけで万死に値する。


 この状況に焦れたのは、僕でも梅園さんでもなかった。

……俺たちに何か用ですか

 不動の問いかけに一瞥くれるだけで梅園さんは口を開かない。

 むっとした表情をする不動を仕草で下がらせる。


 そして再び無言の時間だ。

 我慢比べならばいくらでも応じようじゃないか。


 不動は僕に従い翠寿と同じ位置に。葵も僕の半歩後ろにいる。

 隣に並ぶ澪は無表情のままだ。というか、彼女はこんな顔もするんだと内心で驚いていた。


 結局、先に折れたのは梅園さんだった。

随分とご立派な機巧姫を連れているじゃないか。どこから盗んできた? 

貴様のような輩が機巧姫を持てるのか? どうせ金で解決したのだろう。ミョウケンのようにな。

身分を金で買えると思っている莫迦ばかりで反吐が出るわ。

侍という価値は己の力で勝ち取るものだ。決して金では買えん!

 顎を突き出して言葉を発している姿に、慣れたものだなと少し感心をする。

 日頃からこういう態度を取り慣れている者の姿だ。

だがそれよりも今はお前のことだ。

お前はどこから来たんだ。もしかしたら敵国の間者(かんじゃ)ではないのか! 

お前があの機巧武者どもを引き入れたのだろう! 話が出来すぎていて、随分とお前にとって都合がいいからな! 

敵を三旗も倒しただと? 誰が見た。誰が信じる! 

俺の言っていることのが正しいだろう! 違うか!

 得意になって責め立てている。

 指を突きつけ、糾弾する。

そもそもだ。穢れた血を引くケモノどもでさえ許しがたいというのに、素性の知れない者までもが神聖な道場に足を踏み入れるとは何事かっ。

全員、即刻この場から出ていけ!

 全スルーである。


 葵のことを、そして澪や翠寿、不動のことを悪く言われて腹が立たないわけではないが、表情にはさざ波ひとつ立たせない。

 こういう手合いの対応には無視が最善っていうのを教えてやろう。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色