第0話3

文字数 885文字

『カラクリノヒメ』は石橋を叩いて渡るがごとく堅実に制作を進めた。

 一つひとつの品質を高め、全体のバランス調整をした。

 一方でリリース前にしっかり告知をし、事前登録者へのプレゼントのアナウンスなどをして導線を整えた。

 ゲームスタート後はイベントを随時開催、キャラクターの追加をしていった。


 そういった地道な積み重ねがあったからこそ『カラクリノヒメ』はヒットしたのだと僕は思っている。

 もちろん、リリースしたタイミングとか運の要素も多分にあったとは思うけど。


 そんなわけで、ゲームクリエイターの不吹清正は現状に満足をしていた。


 あえてあげるとすれば、ペットを飼いたいなあとずっと思っているけど、今のマンションはペット禁止なのが残念なことぐらいか。

 もっとも妹が猫派で僕が犬派であることから、仮にペットを飼うことになっても猫が来てしまいかねないのだけれど。

 お兄ちゃんは妹に甘いのである。


 あとは彼女も欲しいけど、それは妹が結婚するまでは考えないことにしているから不満とは思わない。

 あいつには苦労をかけた分、幸せになってもらわないといけないからな。


 両親がいなくなって十年。

 当時小学生だった妹も来年度からは大学生だ。

 僕が高校卒業で就職したからというわけではないが、妹には大学に進んで欲しかった。

 そんな僕の希望を知ってか知らずか、妹は進学してくれた。

 しかも国立大学だ。すごいな、僕の妹。

 勉強、頑張っていたもんな。

 お兄ちゃんは知っているぞ。毎晩遅くまで勉強していたの。

 努力は報われるのだ。努力した者のところに良い結果がやってくるのだ。きっと。


 季節は春。

 桜の花がほころび、華やかになるにはほんの少し早い時期。


 妹の一人暮らしの準備も進めなければいけない。

 少し寂しいけど、あいつが自立をするためにも一人暮らしはいい経験になるだろう。

 たまには家にも帰ってきて欲しいけどな。

 あいつの部屋は片付けないでそのままにしておく予定だ。

 いつ戻ってきてもいいように。


 そう、春なのだ。

 新しい命が芽吹き、新しい出会いが待っている季節。


 不吹清正は今の生活に満足をしていた。


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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