第30話2

文字数 871文字

しっかし、本当に疲れたよ。もうヘトヘトだ。

今日のこの後の予定はすべてなしにしよう。っていうか入っててもどこにも行かないから。その予定は明日以降にしてください。

この後はお休み! はい、決定!

 言いながら仰向けになろうとする。

 僕の動きを察した葵が無言で膝枕をしてくれた。

 実に気が利くなあ。

大丈夫、次の予定は特に考えてないから。今はゆっくり休んでいいからね。

あ、〈手当〉を使った方がいい?

いや、遠慮しとくよ。

戦場だといつも澪が隣にいてくれるとは限らないだろ。だから自然回復を待つ。

どのぐらいで回復して動けるようになるか知っておきたいし

そっか。わかった。

でも機巧武者になるのってそんなに大変なんだね

澪も覚悟しとけよー。

水縹の君が直ったら、きっとこうなるんだからな

うわー、それはちょっとやだなあ。

あ、でもそんなこと言ったら水縹がかわいそうよね。今のは聞かなかったことにしておいて

 うん、いつもの澪だった。

 もしも澪から相談を持ちかけてきたら、そのとき初めて一緒に悩み、考えればいい。

それで、このあとはどうしようか。

特に予定は考えてなかったけど、他にどこか行っておきたいところがあれば案内するよ

うーん、それなら城下町に行きたいかな
いいけど、少し歩くよ?
知ってる。

でも、ここに来るときは塀の外でやってる市の様子しか見られなかったしさ。町の様子を見ておきたいんだよ。

あと日用品とか着替えなんかも買っておきたいし

 なにしろ三百石も給料としてもらえることになってるからな。

 江戸時代だと蔵前取りの旗本や御家人は給料を米で支給をされ、商人に手数料を払って現金にする必要があったけど、喜ばしいことにここ関谷ではいつもニコニコ現金払いだ。

 給料という形で年三回に分けてもらえるのだけど、とりあえず百石分が支給されている。

 一石は一両で、一両がおよそ十万円だとすれば、僕は一千万も手元にあるわけだ。いやぁ、藤川様も太っ腹だよね!

 むしろこんなにもらっても使い道に悩みそうだ。貯金っていっても銀行があるわけじゃないしなあ。可処分所得は何かの投資に使えばいいんだろうか。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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