第28話1 調練場はかなり広い

文字数 702文字

 調練場はかなり広い。

 機巧武者での模擬戦を前提にしているので当たり前なのだが。


 さて、これから猪武者を相手にしなければならないわけだが。

 そう思って振り向くと、頭から湯気でも出しているんじゃないかという表情で梅園(うめぞの)景虎(かげとら)さんが僕を睨みつけていた。

俺は心の広い男だからな。

荷物をまとめて出ていく用意をする時間ぐらい待ってやってもいいぞ!

 カッカした状態でも煽りを入れることは忘れないんだな。

 いい根性だ。

なあ、葵。

ちょっと聞きたいんだけどさ

なんでしょうか?
……どうやったら機巧武者になれるの?

 初めては状況が全くわからない状態で、気が付いたら機巧武者姿になっていた。

 だから自分の意思で機巧武者になる方法がわからないのだ。

()に触れてください。

勾玉に触れ、まっすぐに吾の瞳を見つめてください

 言われるまま制服の胸の部分にある葵色の勾玉に触れ、瞳を見つめる。
そして強く願うのです。力が必要だと
わかった。

じゃあ、やろうか

 魂の形をしているとも言われる勾玉に触れたまま瞳を見つめ、心の中で強く願う。


 ――力が欲しい!


 次の瞬間、己の中にとてつもない力がみなぎっている。

 人にはとても及びもつかない圧倒的な力を手にする。

 常人であれば今にも暴れだしてしまいそうな力を手にしていながら、心は波紋一つない湖面のような冷静さを保っている。五感は極限にまで研ぎ澄まされていた。

 力と心、すべてが己のコントロール下にある。


 地面を見下ろす。

 少し離れたところに、澪と翠寿、不動の姿が見えた。

すげー! 

すげーよ、兄貴!

わー、キヨマサさま、すごーい!
 不動と翠寿が感嘆する声もはっきりと聞こえた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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