第32話3

文字数 707文字

こういう仕事ですから私もいくつか人形は目にしていましたけど、こんなお綺麗な……人間と見分けがつかない機巧姫を見るのは初めてですよ。

はあ、驚いた。

髪の色がなければ機巧姫とわかりませんでした

葵と申します
 葵は嫌な顔一つせずに、小さくお辞儀などをしている。
ご丁寧にありがとうございます。

私は化粧品を扱っている富美菊(ふみぎく)の店主、そめと申します。

そうですか。あそこの建物にはこんなにお美しい機巧姫がいらっしゃるのですね。

それで今日は化粧品を揃えるために当店にいらしたと

はい。一式見繕っていただけましたらと思いまして
わかりました。

うちで一番のものをご用意しましょう

あー、でもそれってお高いんですよね……?
 慌てたような澪が、こちらを見ながら聞いている。
いいよ。予算ならあるから。

この店で一番いいものを頼む

はいはい、承りました。

いい旦那様ですねえ

 機嫌よくおそめさんは店の奥へと消えていった。
いいの? 化粧品ってとっても高いんだよ? 

いくら葵の君のためだって、そんなに散財したら……

大丈夫だ、問題ない

 妹用に一式買い揃えたことがあるから、おおよその相場は知っている。

 基礎化粧品は今使っているのがあるから、ファンデとアイシャドウと口紅だけでいいなどと妹は言ったけど、あえて一式を買った。

 しめて八万円也。妹の大学進学祝いだから高いなんて思わなかった。

葵にはこれから苦労をかけるだろうから、その前払いだと思っておいて

 なんて茶化しておいてウィンク一つ。

 が、葵は深々と僕に向かってお辞儀をしていたために華麗にそれをスルー。

ありがとうございます、主様。

大変、嬉しく思います

お、おう……
 カッコがつかないことこの上なかった。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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