第57話1 煙に導かれるように中伊さんが駆け出す
文字数 574文字
煙に導かれるように中伊さんが駆け出す。
不動と視線を交わしてから荷物を背負い直して歩き始める。
勝負はここからだ。
けれど澪たちからの合図はまだない。
煙の登る場所を目指して小道にわけ入って少し行くと背の低い粗末な建物が見えてきた。
周囲の草が刈られているのでちょっとした広場になっている。
小屋の隣には屋根付きの炭焼窯があり、脇には大量の薪が積み上げられていた。
小屋からは薄っすらと煙が立ち上っている。誰かがここにいるのは間違いない。
ただかなり小さな小屋なのでここに紀美野さんが監禁されているとは思えなかった。
それに澪たちの姿もないから監禁場所は他だと考えるべきだろう。
小屋の扉が開いて、中から男が姿を見せると中伊さんが駆け出す。
中伊さんが掴みかからんばかりに迫っている相手は収まりの悪い蓬髪頭を無理矢理撫で付けた男だ。
小袖をからげた股引姿は町で見かけたのならなんの不思議もないが、無人であるはずの村にいていいはずがない。
おまけに腰には刀を差している。
間違いない。
銭湯の二階から一緒に覗きをした人だった。