第26話2

文字数 1,036文字

澪の耳のことも気になってたんだ。

先っぽがちょっと尖ってるよね

私は木霊(こだま)の一族だからね
木霊は八岐(やまた)の中でも尊敬を集めているからな。

むしろ俺の角よりも姉貴の耳のが御利益があると思うぜ!

やまた?
 僕の疑問交じりの声に、どうしようかという顔をしながら二人は互いを見ている。変なことを聞いてしまったのだろうか。
……八岐は私たちのような化外(けがい)の民のことよ。

小さい頃に言われたことはない? 

山に入るとさらわれるよとか、悪い子のところには鬼がやってきて頭から食われるよとか

 生憎だが聞いたことはない。

 おそらく澪たち八岐というのは江戸時代の士農工商から外れる人々のようなものなのだろう。村や町に定住せずに山に入って狩猟などを生業とする存在だ。

言っておくけど、俺は鬼だけど人を食ったりはしないぜ!

 ニカっと顔全体で大平さんは笑う。

 来年の話をしているわけでもないのに鬼が笑っていた。

あたしもヤマタです!
スイジュのような人狼もそうね。

他には水蛟(みずち)土蜘蛛(つちぐも)天狗(てんぐ)九十九(つくも)宿曜(すくよう)と呼ばれる者たちがいるの。

私の領地にはそういう人たちが暮らしているんだよ

 澪の表情はどこか強張っている。

 触れられたくないことを聞いてしまったらしい。

俺たち鬼は別に集落があるんだけどな。

鬼は不屈の闘志と力自慢が多いんだ。

人狼はすばしっこい奴が多いよな

あたし、すばしっこいです!

 うん、人狼が素早いのは知ってる。

 紅寿の蹴り足の速さを身をもって体験したからな。

水蛟は偉そうにしているが強い奴もいる。土蜘蛛は胡散臭いっていうかいつも騙されるから嫌いだ。天狗は陽気だけど調子がいい奴らが多いな。九十九に強い奴はいるけど真面目で融通が利かないから付き合うのは面倒だ。宿曜は何を言っているのかよくわかんねえ。

そんな八岐の中でも姉貴の木霊は怒らせると一番怖いんだぜ。昔話には森を勝手に切り開いて木霊の怒りを買った国が大地震で滅んだっていうのもあるからな!

そうなんだ
 よし、澪を怒らせることは極力避けるようにしよう。
あ、ちょっと今、私との間に距離を取ろうしなかった?
してない……いえ、しておりません。

それは淡渕様の勘違いだと愚考いたします

ちょっと、キヨマサ君の言葉遣いが変になってるんだけどっ。

本当に距離取ってないよね? 

私のこと避けようとしてたら泣くからね!

ほんとほんと
 よかった。さっきまでのどことなく暗い雰囲気が霧散してくれたようだ。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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