第42話3

文字数 586文字

 女性陣の輪を離れた紀美野さんがこちらへやってくる。

出発はいつごろになりますか。

それまでにお酒をご用意しておきますから

先方から返事の手紙をいただけたらすぐにでもと思っているんですが……だからいつというのは明言できないんです。すみません
わかりました。ではよさそうなものをいくつか見繕っておきますね。

お父さん、今から酒屋に行って見てきてもいいわよね?

ああ、いってらっしゃい
 裾を絡げた紀美野さんはお店の奥へ走っていく。
花嫁修業の一環として笠置屋で働いていると聞きましたけど、実家のお手伝いもして、本当に気立てのいい人ですね
妻を亡くしてからはあれと二人暮らしで奥向きのことはすべて任せていますが、親の目からすればまだまだです
 そんなことを言いながらも中伊さんの目尻は下がりっぱなしだった。
いずれ店を継ぐ者と夫婦になるのだから外へ出る必要などないと言ってはいるのですが誰に似たのやら。

ああ、すみません。あれが戻るまでお茶でも飲んで寛いでください

ありがとうございます

 感謝の言葉を述べつつ土縁に腰を下ろさせてもらう。

 澪たちは楽しそうに商品を眺めているからもうしばらく放っておこう。

どうぞ
 土縁に淡い色のお茶が入った湯飲みが置かれる。
勾玉のことを伺っていいですか?
勿論ですとも
こちらなんですけど

 懐から布の塊を取り出す。

 包まれていた布を取ると中から彩度の低い青色の石が姿を見せた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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