第32話1 優先すべきは女性の買い物だ

文字数 746文字

 優先すべきは女性の買い物だ。だから葵の欲しいものを先に済ませるのが賢い。

 どうせ女性の買い物は時間がかかるのはわかりきっているのだ。それに買い物をすると機嫌がよくなるのは経験上でも明らかなことだし。

 うむ、妹と買い物に行った経験がいきているな。

まずは化粧道具からなんだ

 着替えとか(かんざし)(くし)などの小物からかなと思っていたので少し意外に思う。

 葵はそのままでも十分に綺麗だけど、女性にとって化粧は自己の決意を表明する的な意味合いもあって大事なものだ。

 男の視点でいくら綺麗だと言われても、本人が納得していなければならない。


 化粧水に白粉(おしろい)、紅……基本は現代と変わらない。

 紅は唇だけではなく、薄っすら頬に入れたり目元に入れたりもするそうだ。

 さらにはマニキュアのように爪に塗る人もいるんだとか。

 女性の美しくなりたいという願いはどこの世界、時代でも変わらないんだな。

いらっしゃいませ。

今日はどのようなお品をご希望でしょうか

 店員が話しかけるのはもちろん僕ではなく澪と葵だ。

 こういう場所で男の役割は財布と荷物持ちと相場が決まっている。

 女性陣の会話が盛り上がっているのをよそに、僕は並んでいる商品を眺めることにした。


 三段に重ねられた陶器の入れ物は白粉を塗るときに使う道具だ。白粉を使うときは水で伸ばしてから塗る。

 一段目と二段目にそれぞれ白粉と水を入れて、一番下の深底の器で適度な濃さに混ぜてから使うんだとか。

 刷毛(はけ)は毛先も揃っていて、現代のものと比べても遜色ないように見える。


 お猪口(ちょこ)が伏せてあるのでなんだろうと思ったら、これが口紅だった。

 器の内側に紅が塗ってあり、使わないときは伏せておくことで紅の色が変化しないようにするらしい。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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