第47話3

文字数 600文字

人形雛ってどれぐらいするものなのですか?
高いもので六百万圓。安いものでも二百万圓というところでしょうか

 幅はあるけど結構なお値段だ。新車の自動車ぐらいか。

 ただし自動車と違って人形雛に実用性はほとんどない。

 それでも欲しい人がいるのだから不思議なものだ。

人形を持っているというのは他人に自慢できますからね。

商売がうまくいっている。お金はある。ならば次に望むものは美しい人形というのがありまして。人の欲は際限を知りませんからな

 武士ではない者が機巧姫を連れていても意味はない。

 だが庶民にとっても人形は憧れの存在である。

 廉価版でもいいので手元に置いておきたいという心理があるのだろう。

動いている人形とはかなり雰囲気が違いますね
購入したお客様がお好みの化粧を施すことで人間らしくなりますよ。腕のいい化粧師(けわいし)もご紹介しております。

うちで扱う人形は素体の状態でも出来がよいものばかりで、化粧を施すと人間と見分けがつかないと評判なのです

店先に立っていた人形のようにですか
 確かにあの人形の外見は美しかった。外見だけは。
左様でございます

 とはいえ、あくまで見た目の評価でしかない。

 人形雛がどれだけ優れた外見をしていようとも、機巧操士と共感し、機巧武者になることはない。

 簡単な命令に従うことはできるが自我はない。

 実用性に乏しく、所有欲を満たすだけの存在。それにお金を払えるのはよほどの道楽者だ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色