第60話2

文字数 622文字

見事だ。

だがその隙は逃さんッ

 背後から一点を穿つ細く鋭い圧力が迫る。

 体を入れ替えて鶯色を迎え撃つ。強い衝撃。

ぐがあァァァァ……わ、私を盾に、するなんて……ひでェことをしなさる……

 紅樺を背後から貫いた穂先をかわしながら刀を引き抜く。

 左手で突き出した槍の柄を捕まえる。

 紅樺が間にいるから姿を視認はできない。でもこれで鶯色は逃げられない。

くらえ!

 紅樺の胴上部にある胸板と喉輪の隙間に狙いを定める。

 人間なら鎖骨のあたりに切っ先を当て、渾身の力を込めて右手一本で突きを放つ。

ぐがあァッ

 三度、紅樺の体が貫かれた。

 刀は手ごたえすら感じさせずに埋まっていく。

 鍔元に当たった抵抗を気にせずそのまま突く。

 この先に鶯色がいる。

いないっ!?

 切っ先が空を切っていた。

 鶯色がいるはずの場所には何もない。

それなら!

 手首を捻って刃を外へ向け、そのまま斬り払う。

 紅樺の左腕が袖と一緒に斬り飛んだ。

あぐッ。ぐううゥ……

 機巧武者のダメージはある程度とはいえ機巧操士にもフィードバックされる。

 腕を斬られた痛みは相当のものだろう。

 紅樺の機巧武者は力なく膝をつき、うつ伏せに地面に倒れる。

 背中に刺さったままの槍が墓標のように天に向かって伸びていた。

キヨマサさま気を付けて! 

上です! 〈軽身(けいしん)〉をつかってますっ

 翠寿の声に顔を上げる。

 そこに奇妙な光景があった。

は? 

……ええ!?

 地面に突き立った藍色の槍の柄に鶯色の機巧武者が立っていた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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