第60話2
文字数 622文字
背後から一点を穿つ細く鋭い圧力が迫る。
体を入れ替えて鶯色を迎え撃つ。強い衝撃。
紅樺を背後から貫いた穂先をかわしながら刀を引き抜く。
左手で突き出した槍の柄を捕まえる。
紅樺が間にいるから姿を視認はできない。でもこれで鶯色は逃げられない。
紅樺の胴上部にある胸板と喉輪の隙間に狙いを定める。
人間なら鎖骨のあたりに切っ先を当て、渾身の力を込めて右手一本で突きを放つ。
三度、紅樺の体が貫かれた。
刀は手ごたえすら感じさせずに埋まっていく。
鍔元に当たった抵抗を気にせずそのまま突く。
この先に鶯色がいる。
切っ先が空を切っていた。
鶯色がいるはずの場所には何もない。
手首を捻って刃を外へ向け、そのまま斬り払う。
紅樺の左腕が袖と一緒に斬り飛んだ。
機巧武者のダメージはある程度とはいえ機巧操士にもフィードバックされる。
腕を斬られた痛みは相当のものだろう。
紅樺の機巧武者は力なく膝をつき、うつ伏せに地面に倒れる。
背中に刺さったままの槍が墓標のように天に向かって伸びていた。
翠寿の声に顔を上げる。
そこに奇妙な光景があった。