第53話3

文字数 518文字

あのお店?
うん。

このお店には来たことないの?

私には水縹がいるからね
 お店の前に立つ僕たちに向けて人形が頭を下げる。
お疲れ様です
 葵も人形に合わせて頭を下げていた。
葵はその人形と会話できるの?
いいえ。

この子たちには真の心がありませんから。仕方のないことです

いらっしゃいませ……おや? こちらの人形は……まさかっ
 僕たちの会話を聞きつけて店先に姿を見せた宇頭さんが固まる。
お、おおおおぉ……こんな美しい機巧姫を見るのは生まれて初めてですっ

 ずさっと両膝をついて葵を拝む。

 いやいやいや。それはちょっと大げさすぎでは?

 道行く人の視線が痛いので宇頭さんを立ち上がらせようとするものの言うことをきいてくれない。

葵、手伝って
はい
おおっ、なんと自然な仕草っ。

そしてその声の美しさも素晴らしい!

 はいはい。ご希望ならいくらでも葵と話をさせてあげますから、今は大人しくお店の中に入ってくださいね。

 引きずるようにしてお店に入ると、ようやく宇頭さんも我に返ってくれた。

も、申し訳ありませんでした。

思わぬ出会いに放心してしまい……こういう仕事をしていますから人形はたくさん見てきたのですが、これほど麗しい人形は初めて拝見いたしました

慣れているので大丈夫です
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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