第53話4

文字数 568文字

おや。お客様は先日の……
不吹です。今日は少し伺いたいことがありまして。

ああ、紹介がまだでしたね。

操心館で同僚の淡渕と僕の連れ合いの葵です

私はウトウ・ウヘエと申します。

津島屋の主人をしております

 宇頭さんの視線は葵の胸元に固定されている。
この大きさは間違いなく古式以上。となると、やはりこの機巧姫は神代式。

はあ、長いことこの仕事をしていましたが神代式をこうして目にする日がくるとは……感無量です

 宇頭さんの視線を遮るように立つ。
赤でもなく青でもなく緑でもない。一番いいものを頼む

 そう伝えると宇頭さんの瞳の色が変わった。

 さっきまでの恍惚とした表情は消え失せ、商売人の顔になっている。

かしこまりました。こちらへどうぞ
 先に立った宇頭さんに続いて店の奥へと入る。
今のなに?
合言葉かな。

昨日の中伊さんが口にしていたんだ

 あの時も人目を憚るようにして店の奥へと姿を消した。

 だから思い切って切り出してみたんだけど正解だったようだ。

足元にお気を付けください
 宇頭さんは蝋燭を手に地下へと続く階段を降りて行く。
最近は機巧姫よりも人形雛が人気で生産数がぐっと減ってしまい在庫も十分ではないのですが

 壁の蝋燭が灯される。

 そこは六畳ほどの狭い部屋だった。

 宇頭さんと僕たち三人が入ると部屋はいっぱいになる。

これは――
 そこには一体の人形が飾られていた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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