第17話1 かなり緊張していた

文字数 935文字

 かなり緊張していた。

 僕は今、色鮮やかな欄間(らんま)を境とした畳敷きの謁見の間で関谷国の王様と対面している。

 畳敷きで十畳ぐらいだろうか。

 イメージとしては明治維新で大政奉還が行われたときのあの絵を思い浮かべてもらえればいいだろう。部屋の広さは違うけど雰囲気はつかめると思う。


 上段の藤川(ふじかわ)白扇(はくせん)様が鎧櫃(よろいびつ)に腰かけていた。

 鮮やかな青の鎧直垂(よろいひたたれ)の上に体の右側を守るための脇立(わいだて)をつけ、左手は手蓋(てがい)で覆っている。この上に大鎧を身に着ければいつでも戦場へ行ける格好だ。


 藤川様だけではなく、この場にいる全員が戦支度を済ませている。張り詰めたような雰囲気から、機巧武者の侵入に対してどうするべきかの話し合いをしていたようだ。


 その藤川国王に怖いという印象はない。年齢は三十代後半ぐらい。失礼だけど意外に若くて美男子だ。

 戦乱の世で国を治めているなんていうから第六天魔王的な人だったら嫌だなあと思っていたけど、これなら取引先のプロデューサーの方がずっと怖い。納期ギリギリになってから仕事をひっくり返す的な意味で。


 ともあれ、今は王様に謁見の最中である。

 これが洋風の世界であれば真っ赤なカーペットが敷かれているだの、壁面には見事な彫刻が飾られてだの、武装に身を固めた金属鎧の騎士たちが立ち並びだのというところだけど、ここはあくまで和風の世界だ。

 畳敷きだからカーペットはないし、彫刻はあるものの欄間のあれは花鳥風月で絢爛さはあっても威圧感はない。

報告はゲンサイから受けておる。

一旗で三旗もの機巧武者を打倒したという話は俄かには信じがたかったが、会ってみて納得がいった

 ぱんと国王様は自分の肩を扇子で叩く。
そのように美しい機巧姫がいればまさに百人力であろう。

とても人の手で生み出されたものとは思えぬ美しさ。

見惚れてしまうな。カッカッカ

 どこぞの天下の副将軍のような笑い方だった。殿様はこのように笑うべしみたいなルールがあるのかもしれない。

 しかし顔に加えて声もイケメンなのか。どこの仮面のメイドだよ、どこの二代目眠りの名探偵だよ、どこの六階級制覇を目指すボクサーだよ、どこの声優が声当ててんだよ!

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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