第48話5

文字数 669文字

ご本人が直接言及したわけではないのですね?
いや、あいつははっきりと私に向かって言った。

『操心館へ行けばフブキ様のおそばにいられるでしょうか』、とな

……はい?

 ほの香姫を嫁にどうだというお話でしたらあの場だけの冗談ですよ。

 事実、藤川様だってあっさり引っ込めたじゃないですか。

さすがに今のは冗談ですよね?
ホノカは冗談など言わぬぞ。いつでも真剣だ

 じゃあ、あれですよ。英雄に憧れる乙女回路が混線しているだけです。

 外の世界を知らないので、たまたま現れた珍しい人間に興味を持ったのを恋心と勘違いしただけのこと。


 あ、わかった。わかりましたよ!

 これはあれですね、僕をダシにして行動の自由を勝ち取ろうというパターン。それなら納得できる。

 僕は当て馬。実に適切な役回りだ。

つまり新々式の人形を藤川様にお見せして城下に新しい技術があることを伝え、その功績というか話の流れで、ほの香姫が機巧操士になったと切り出し、彼女に戦場で生き延びる術を学ばせるために操心館へ送り込む説得をしたい、と
そうだ

 妹を思う兄の気持ちはよくわかる。できれば手助けしてあげたい。

 だけどこれは無理筋の話のように思う。

 そもそも藤川様が娘を戦場で戦わせることをどう考えるのか。

 あの場では娘であっても機巧操士になってくれれば面目は立つと言っていたけど、それが本心かどうかはわからないし、本当に戦いの場へ送り込むつもりがあるのかというともっとわからない。


 さて、どうしたものか。

 白糸様は真剣な表情で僕を見ている。

 まるで僕が正解に至る道を提示してくれるのを待っているかのようだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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