第4話1 一面の青だった
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一面の青だった。
目に鮮やかで、どこまでも続いている。
まるで心まで吸い込まれそうな清々しい青だ。
それが全周に広がっていた。
遥か彼方に霞んで見える地平線は緩やかなカーブを描いている。
そうつぶやいたはずの自分の声が聞こえない。耳に届かない。
聞こえてくるのはゴゥゴゥ、ビュウビュゥという風を切る音ばかりだった。
髪の毛は逆立ち、衣服も千切れんばかりにはためいている。
そういえば夢の中で空を飛んでいる場合は上昇を続けるよりも落ちる方がよい夢だなんて話を聞いたことがある。
それが事実なら、これほど明確な落ちる夢なんてラッキー以外なにものでもない。
だが、しかし、ちょっと待ってほしい。
全身に感じる風も、重力に引かれて落ちていく感覚も、ぐるぐると回り続けている青い空と緑あふれる大地も。
このまま落下を続けて地面に激突すれば命はない。
それを覚悟できるだけの現実感があると五感が訴えていた。
両手と両足を広げて全身で風を受け、海老反りの姿勢を取ろうとする。
要するにあれだ。テレビなんかで見るあのポーズだ。
風圧で思うように体は動かないし、視界が回るからどっちが上だか下だかもわからない。
とにかく手を伸ばす。足を振ってバランスをとる。
もがきながらも少しずつ状況を整え、なんとか思い通りの形にすることが――
これでよしと思ったのも束の間、今度はまともに目を開けていられなかった。
顔をそむけ、ぎゅっと目をつむる。
風圧に顔の肉が歪められるのがわかる。
おそらく、にらめっこをすれば百戦して百勝できるであろう表情になっているはずだ。
周囲に空気があるはずなのに、まったく呼吸することができない。
息苦しい。
目が開けられない。
駄目だ。これは駄目だ。