第4話1 一面の青だった

文字数 785文字

 一面の青だった。

 目に鮮やかで、どこまでも続いている。

 まるで心まで吸い込まれそうな清々しい青だ。

 それが全周に広がっていた。

 遥か彼方に霞んで見える地平線は緩やかなカーブを描いている。

地球って、本当に丸いんだ……

 そうつぶやいたはずの自分の声が聞こえない。耳に届かない。

 聞こえてくるのはゴゥゴゥ、ビュウビュゥという風を切る音ばかりだった。

 髪の毛は逆立ち、衣服も千切れんばかりにはためいている。

これは……夢?

 そういえば夢の中で空を飛んでいる場合は上昇を続けるよりも落ちる方がよい夢だなんて話を聞いたことがある。

 それが事実なら、これほど明確な落ちる夢なんてラッキー以外なにものでもない。

 だが、しかし、ちょっと待ってほしい。

こ、これはいくらなんでもリアルすぎないか?

 全身に感じる風も、重力に引かれて落ちていく感覚も、ぐるぐると回り続けている青い空と緑あふれる大地も。

 このまま落下を続けて地面に激突すれば命はない。

 それを覚悟できるだけの現実感があると五感が訴えていた。


 両手と両足を広げて全身で風を受け、海老反りの姿勢を取ろうとする。

 要するにあれだ。テレビなんかで見るあのポーズだ。

 風圧で思うように体は動かないし、視界が回るからどっちが上だか下だかもわからない。

 とにかく手を伸ばす。足を振ってバランスをとる。

 もがきながらも少しずつ状況を整え、なんとか思い通りの形にすることが――

ぐはあああぁぁぁぁぁぁぁ……っ

 これでよしと思ったのも束の間、今度はまともに目を開けていられなかった。

 顔をそむけ、ぎゅっと目をつむる。

 風圧に顔の肉が歪められるのがわかる。

 おそらく、にらめっこをすれば百戦して百勝できるであろう表情になっているはずだ。

 周囲に空気があるはずなのに、まったく呼吸することができない。

 息苦しい。

 目が開けられない。

 駄目だ。これは駄目だ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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