第0話2
文字数 1,772文字
……さて。
今、僕が関わっているゲームの話をしよう。
僕がディレクターを担当した作品としては三作目となる。
タイトルは『カラクリノヒメ』というソーシャルアプリだ。
優れた機巧姫は人のように笑い、人のように振る舞い、そして魂の色を同じくする操り手、機巧操士によって戦場の決戦兵器、
戦乱の火が燻り続けるこの世界では多くの勢力が対立しており、いまだ天下の行く末は定まっていなかった。それぞれの思惑が絡み合い、機巧姫を揃え、いつ
「君は、戦って生き残らなければならない」
とある小国にて一人の機巧姫と主人公は出会い、戦乱に終止符を打つべく立ち上がった……。
そんなストーリー設定を持つ、ありふれたロールプレイングゲームである。
この企画を立て、コンセプトを決め、ゲームの制作を指揮したのが僕だ。
システムに特別な要素はない。オーソドックスなRPGだと思ってもらえばいい。
ストーリーを進めて行くと仲間が加わったり行ける場所が広がり、パーティーの数が増えたり、探索をして資源を集めたり、アイテムを強化したり、仲間をスカウトしたり、機巧姫を作成したり、レイド戦で強大な敵を撃破する。
本当にありふれたシステムだ。
その分、各素材や要素をより洗練させ、バランスよく配置することでゲームを成立させることをコンセプトにしたのが『カラクリノヒメ』だ。
思えば、この手のソーシャルゲームはリリース当初からずっと進化を続けてきた。
初期は単に数値が上下したり、カードがぴょこぴょこ動いて戦闘経過を見せていただけだったのが、キャラクターのチップや3Dデータを用意して攻撃モーションを取らせるようになった。
やっていることは同じなのに受ける印象は大幅によくなる。いわゆるリッチ感というやつだ。
最近はこのリッチ感の最低基準がかなり上がっている。
当然だけどチップを作成したりモーションをつけたりするのにもコストはかかる。
でも今どきのゲームでカードの絵が動いて殴り合うだけの戦闘というのはちょっと辛い。プレイヤーに手抜きだと思われてしまうからだ。
だから基本システムは仮に同じだとしても見栄えを変えるという切り口の変化によって新鮮さを出してきた。
もちろん、新しい遊び方やシステムを提示して成功してきた作品もある。むしろそちらのアプローチの方が大事だと個人的には思う。
だが現実は新しいことへの挑戦はなかなか許されない。しっかりと数字を出せる企画が望まれているからだ。
そして今売れている要素を全部詰め込めば必ず売れるわけではないのがエンタメ業界の難しいところだと思う。
話題になっている旬のイラストレーターにキービジュアルを描いてもらい、作品がアニメ化したこともある作家にストーリーをお願いし、斬新で面白いゲーム性と快適なシステムを揃えれば必ず勝てるかというとそうではない。
結果的に爆死していったビッグタイトルは両手の指では足りないほど存在する。
残念なことに、それらの要素はあくまでヒットさせるための前提条件の一つでしかないのだ。
ソーシャルゲームの場合はIPや運営のノウハウが重要だとも言われている。
IPっていうのは知的財産のことで、有名な作品タイトルやシリーズ、キャラクターのことだと思えばいい。
誰もが知っている作品であること。これは大きな武器になる。だから有名な大型IPを確保しようと営業が頑張っている。
また運営も、いかにしてプレイヤーを飽きさせず遊び続けてもらうかというノウハウの蓄積、状況に合わせた対応が重要だ。
あとは宣伝。
ステマだろと言われようが気にしてはいけない。
ちょっとウザいと思われるぐらいの宣伝をしないと生き馬の目を抜くようなエンタメ業界で勝ち残ることはできないのだから。
下手すると開発費と同じぐらいの広報費を用意しないと駄目だなんて言われたりもするのが恐ろしい。
だが、それは厳然とした事実なのだ。
だからきちんと売るには宣伝にも結構な額を投入するしかない。
そうしないと潜在的なユーザーの興味を引くというスタートラインにすら立てないのだから。