第55話3

文字数 779文字

津島屋に来た中伊さんをたまたま僕も見ましたが明らかに様子が変でした。

ひどく顔色が悪くて、まるで誰かに見張られているみたいな感じで。

機巧姫を二体も購入し、しかも化粧もろくにしないで済ませたそうなんです

化粧を? 

普通は好みの人形にするために化粧師にあれこれ注文をつけるものなのにどういうことだろう。

人形雛じゃなくわざわざ機巧姫を買ったってことはかなりのこだわりがあるはずだよね。それにきちんと化粧をしないとまともに動かないんだけどなあ

機巧姫を購入してからの中伊さんは部屋に閉じ籠っています。

娘さんと二人暮らしだったのですが彼女の姿は確認できません。働いているお店に連絡も入れずに休んでいるそうです。

ただし彼女が身に着けていた簪だけは家に残されています。

それから中伊さんの家は何者かによって監視されています。しかも裏手側には侵入者感知と思われる結界まで張られていました

ふむ……たしかに妙と言えば妙ですね。

フブキ様のお考えを聞かせていただけますか

恐らくですが、娘さんがさらわれて、彼女の身柄と引き換えに中伊さんは機巧姫を購入させられたのではないでしょうか
そういうのは許せねえ! 

今すぐ助けに行こう、兄貴!

お待ちなさい、オオヒラさん。

仮にその推測が事実だとしても、どこに連れ去られたのかわかっていないのですよ

えーと、僕の意見を言ってもいいかな。

聞いた限りでは状況証拠ばかりだよね。

娘さんの行方が知れない、彼女が身に着けていた簪だけが残されている、機巧姫を二体も購入したが化粧が不十分だ、彼の家を監視している奴がいる――だから娘が誘拐されたのだろう。

しかも機巧姫は国外に持ち出される可能性があるっていうのは論理が飛躍しすぎだと思う

 そういう意見を待っていた。

 僕一人では思い込みで偏りが生じる可能性が高い。

 こうして指摘してもらえることでより正しい形が見えてくるはずだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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