第5話4

文字数 895文字

 心に届く声にうなずいて、次の敵に向かっていく。

 まだ状況を飲み込めていないのか反応が鈍い。

 すり足で一気に距離を詰める。

お、おのれっ

 慌てて槍を構えようとするが遅い。

 右の籠手を槍の柄に当ててかち上げる。

 がら空きになった胴体に遠慮なく前蹴りを放ってやった。

 胴がひしゃげる。

ぐひ……っ

 轟音を立てながら倒れる。

 見事にひっくり返った相手は空を見ることしかできない。

 容赦せず、踵で頭部を踏み抜く。

 びくんと一度大きく痙攣した後、機巧武者が動かなくなる。

次だ――
 振り返った瞬間、目の端で光ったものがあった。
主様。跳躍を
 大地を蹴って宙に舞う。
飛び上がるとは愚かな! 

この槍で貫い――くっ、見えぬ!?

 太陽の光を直接見れば目もくらむ。

 でたらめに槍を振るったところで当たるはずもない。

 苦し紛れに振り下ろされた槍を上から踏みつける。

しまっ――

 持ち上げようとしても無駄だ。

 そのまま体重をかけて柄をへし折る。

 攻撃手段を奪ったら、あとは追い詰めるだけだった。

 あっという間に三体を処理した。

 相手の攻撃はこちらにかすりもしなかった。

 まったく問題はなかった。

 圧倒的な差があった。

主様。制圧しました

 ゆっくりと息を吐く。まだ緊張を切らすわけにはいかない。

 打ち倒した機巧武者の姿は消えていた。

 損傷が大きすぎて姿を維持できなくなったのだろう。

 桜の花びらがちらちらと舞っている。

僕たちも安全なところまで下がろう……その前にこの村の生き残りを探す方が先かな

 まだ生きている人がいたはずだ。

 そもそも彼らを助けるために僕はここに来て、戦ったんだから。

 だけど駄目だ。

 すぐにでも意識が途切れそうだ。

 体を動かそうと思っても、重くてどうにもならない。

 ああ、視界が端の方から暗くなっていく。

 このままだと動けなくなる。

 動けなくなる前になんとかしないと。

 せめて生きている人たちを安全なところにまで連れて行くんだ。

生き残った……ひとたち、を……たすけ、て……
わかりました。

生き残った人たちを助ければよいのですね

そう、だ……たすけて……あげて……

 すとんと意識が落ちた。

 また暗い世界に包まれた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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