第57話5

文字数 522文字

うぉん! うぉぉん! るぅおおおおぉぉぉん!
 短く二度、それから朗々と後を引く遠吠えが聞こえた。
コウおねーちゃんです!

 紅寿の遠吠えの内容はこうだ。


『紀美野さんの救出に成功、命に別状なし』


 事前に打ち合わせておけば遠吠えで簡単な情報を得るのは人狼でなくとも可能だ。

作戦成功だ! 

不動、中伊さんを頼む! 翠寿も!

任せてくれ!
はい!

 この後の行動も決めてあった。

 優先すべきは中伊さんと紀美野さんを無事に連れ帰ること。それから僕たちの安全。無理なら機巧姫は諦めてもいい。

 この場は数的有利もある。事前の打ち合わせ通りにいけるはず。

ヒカゲ、鬼と人狼が動くぞ。

気をつけろ!

葵!
――ふっ

 鋭い踏み込みから刀を突き出す。

 広幡館長から借りた一振りが岩戸に迫る。銘こそないけど逸品だ。

ちィッ

 槍がしなり刀を弾いた。

 葵は距離を詰めて槍使いの動きを封じにかかる。


 僕は不動と翠寿の様子を横目で確認しつつ、いつでも葵に加勢できる位置を取った。

ん、んんんん~~~~

 翠寿は倒れたままの機巧姫に駆け寄り、二体を引きずってこの場所から離脱しようとしている。

 だけど小柄でパワーに欠ける翠寿では二体を運ぶのに時間がかかりそうだ。

 翠寿をフォローすべきかと考えた時だった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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