第33話4

文字数 722文字

 しかしこの世界で初めて買ったものが化粧品になるのか。

 異世界モノだと武器とか防具とかが定番だっけ。あるいは冒険者用のセットや屋台で売ってる串焼きとか。あとは町へ入るための通行税なんかもあるかな。

 さすがに最初に買った品物が化粧品っていうのは珍しかろう。

 化粧品でこんなに喜んでもらえるのなら、ゲーム内のキャラクター好感度アップのプレゼントに入れておけばよかったかもしれない。


 富美菊を出てから生活に必要になるものを中心に買い求めた。

 着替えや筆記具などの小物、収納用の行李(こうり)なんかだ。


 意外なことに、この世界の筆記具は筆と半紙だけではなかった。

 インクを付けずにペンのように使う角筆(かくひつ)というものは古くから日本にもあったけど、この世界にも似たようなものがあった。

 さらには万年筆ように容器の内部に墨を入れておいていつでも書けるという墨筆(すみふで)や鉛筆のような硬筆まで存在したのだ。

 紙も冊子状になっているものはノートのように使うことができる。

 この世界で見聞きしたことを記しておける環境があるのは実に素晴らしい。日記をつけるのもいいな。

 もっとも、久しぶりに手書きで文章を書くことになるので、漢字を忘れていて平仮名ばかりになりそうだけど。


 ちなみに買った物のほとんどはお店が操心館まで運んでくれた。

 僕たちが国王様直轄の組織に所属しているので、そのあたりを融通してくれたようだ。

 あとはツケではなく現金払いをしたのも大きかったのだろう。

 大口の買い物は後日まとめて払うことが多いのに、きっちりその場で支払われるのなら商人からすれば上客になろうというものだ。

 当然、今後も贔屓にして欲しいという下心もあるのだろうけど。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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