第41話2

文字数 588文字

 土縁に置かれた箱の中には小物――(くし)(こうがい)、簪などが並んでいた。

 どれも見事な細工がされている。澪の言っていたようにいいお値段がしそうだ。

綺麗ねぇ
……っ
どれもキラキラしてます!
 澪と紅寿と翠寿はそれぞれの瞳を輝かせながら商品の入った箱を覗き込んでいる。こういうところは年相応の女の子だ。
葵も見ておいでよ。

欲しいのがあったら買ってあげる

お気遣いありがとうございます
 微笑んだものの葵は僕の傍から離れなかった。こちらの話に付き合ってくれるようだ。
はいはい、お待たせしまし――おおおお! こ、これは……
 奥から出てきた身なりのいい男性は葵に視線を向けたまま固まる。
お父さん、しっかりして!
お、おう……あ、いや、申し訳ありません。

娘から素晴らしい機巧姫を見たと聞いていたのですが、まさかこれほどのものとは……

 言いながらも視線は葵に向けられたままだ。
僕は不吹清正。それから連れ合いの葵です

 紹介をすると葵がすっと頭を下げる。

 その仕草は無言でありながらも連れ合いである僕を立てている心根が表れている。

 店先の澪たちは嬌声を上げながら小物を見ているので紹介はいいだろう。

これは失礼いたしました。

永寶屋主人のナカイ・キショウと申します。今日はどのようなご用向きでしょうか

 中伊さんの目が商売人のそれに変わった気がする。いい話を聞けたら何か購入することも考えておこう。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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