第53話2

文字数 632文字

どうして私たちまで見張られると思うの? 

何もしてないのに

窮地に陥っている中伊さんに会いに行ったから、かな

 澪はきょとんとしている。

 その顔を見る限り、今の説明では理解できなかったようだ。

多分だけどね、紀美野さんは誘拐――拐かされたんじゃないかと思う
そん、は? ……え?

 澪の足が止まる。

 追いついた葵がその肩をそっと押したので我に返った澪の足が再び動き出した。

キヨマサ君はどうしてそう思ったの?
一つ目は紀美野さんが笠置屋の仕事を休んでいたこと。

お店の人も彼女が連絡もなく休んで困ってるって言ってただろ

そういえば。

お酒の味も落ちてたし

 お酒だけじゃなくて食事の質も落ちていたんだけどな。

 味音痴らしい澪がお酒にしか気が回らなくても仕方がない。

二つ目は中伊さんの家には一人しかおらず、紀美野さんの簪だけ残されていたこと
キミノさんはどこかに出かけているって考えられるんじゃない?
それなら簪は付けていくんじゃないかな。自分はお店の看板だっていう自覚もあったみたいだし。

それから最後に――

中伊様が主義を曲げてまで機巧姫を買い求めたこと、ですね
 その言葉に頷く。
だから津島屋に行って機巧姫を買った時の中伊さんの様子を聞くんだ。

何かわかるかもしれないからね

それなら本人に直接聞く方が一番早いと思うんだけど……
中伊さんが見張られているみたいだからやめた方がいいと判断したんだ。

下手に僕たちが接触すると相手を刺激しかねないだろ

 通りをしばらく行くと店先に立つ美しい人形が見えてきた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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