第50話4

文字数 596文字

 暖簾を出た先に澪と紅寿、それから体格のよい三人の男性が待っている。
悪いね。待たせて
いいのよ。

キヨマサ君のお願いだもんね

 操心館を出る前に澪に一つお願いをしておいた。

 白糸様のことをお城まで報告してもらって護衛を送ってもらったのだ。

お主らは……そうか。これはフブキ殿の差し金だな

 白糸様の視線が僕の顔に刺さる。

 肩をひょいとすくめて返事とした。

藤川様がお待ちですよ
……わかった
 少しだけ白糸様の表情に陰りが差したけど、それも一瞬のことだった。
それではフブキ殿、フドウ。今日は世話になった。

とても楽しかった。できればまた一緒に出かけたいものだ

勿論です
 僕の返事に白糸様は驚いたような顔をする。
ただし、次はちゃんとお城で許可をもらってきてください。

護衛の役目は不動がしっかり果たしてくれますから

お任せください!

 白糸様が城下町に出て様子を見て回るのは決して悪いことではないと思う。

 黙って外出したのが問題なのであって、きちんと筋を通してあれば同行を断る理由はない。

ありがとう、二人とも。次の機会を楽しみにしている。

ではな

 護衛を連れて白糸様が去っていく。
ねぇねぇ、なんかすごく仲良くなってない? 

何があったの?

それは男同士の秘密だな
そういうこと!
あ、ずるい。教えてくれてもいいじゃない。

せっかくキヨマサ君のお願いを聞いてあげたのに私だけのけ者ってひどくない?

 ぷくーと澪のほっぺたが膨らんでいく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色