第57話2
文字数 610文字
ここで僕たちが交渉の邪魔をしても意味はない。
むしろあの男の不興を買って台無しにしてしまう可能性のが高い。
不動に目配せをして、背負っていた荷を下ろそうと腰をかがめる。
中腰のまま振り返ると誰かがこちらへ向かって走って来ていた。
走っているというより地面を滑るようだ。
まだ米粒ぐらいなのにグングン姿が大きくなる。
長い髪を後ろで縛った男からは明らかに敵意を感じる。
まさか、こちらの計画がバレてしまったのか。
当初立てた目標はまだ何も達成できていないというのに。
男を追って翠寿が駆けてきた。
両手をついて四足の獣のような姿だ。
一気に加速すると背中から男に飛びかかり、首筋に食いつこうとする。
長髪の男はどこからともなく槍を取り出していた。
穂先を地面に突き刺すと、まるで棒高跳びをするように体を宙に放り出す。
男の着地点は僕のいる場所だった。
空中で槍を構え、しっかりと狙いを定めている。