第36話4

文字数 757文字

はい、こちらがうちでおすすめの塩焼きとゆでタコになります。

それから刺身の盛り合わせです

 どんどんどんとお盆にのったつまみが並んでいく。

 白身魚の塩焼きはじゅうじゅうと脂を滴らせて鳴いていた。今朝、食堂で見た物体エックスとは大違いだ。

 ゆでて真っ赤になったタコは既に塩味がついているそうだ。食べやすいように一口サイズに切り分けられている。

 刺身は一つひとつの切り身が大きくて豪快な盛り付けだった。

じゃあ、いただきます

 早速いただく。

 木材が豊富な関谷は割り箸の文化がすでにあるんだと感心しながら箸を伸ばす。

 味はどれもいい。朝食とは大違いだった。

 さすがに毎食あのレベルだと栄養摂取のためとはいえ食事が苦痛になりかねなかったけど、こんな食事が食べられたら文句はない。

どれも美味しいね。

いいお店に連れてきてくれてありがとう

喜んでもらえてよかった。

えーと……これは口紅のお礼ってことで

 そんなの気にしなくていいのにと思って澪を見たら、視線を逸らして頬を赤く染めていた。

 葵はそんな澪の様子に気が付かないフリをして杯にお酒を注いでいる。

 うん、このネタを引っ張るのはやめておこう。

このお刺身は新鮮だね。身がコリコリしてる
船が毎日出ていて、とれたての魚をここまで運んでいるからですよ
 通りかかった店員さんが笑顔で教えてくれた。
お殿様が何年もかけて明科川を整備してくださったんです。

おかげで暮らしやすくなったとお父さんも言っていました

 治水は為政者にとってやらなくてはならない事業だもんな。これに失敗すると領民が命令に従ってくれなくなる。逆に治水工事をしっかりやる領主は領民から慕われるってことだ。

 戦国時代に武田信玄が築いた信玄堤(しんげんつづみ)や、江戸を水害から守っていた中条堤(ちゅうじょうてい)なんかが有名だな。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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