第61話1 ザクザクと地面を削る音がする

文字数 599文字

 ザクザクと地面を削る音がする。


 背後では紅寿と翠寿が鶯色の機巧武者を引き付けてくれていた。

 でもその必死の時間稼ぎも長くは持たない。


 引きずるようにして足を前に出す。

 敵を倒すことができる場所へ移動するために。

ヘキジュ、お願い

 澪を背に乗せたケモノが走り出した。

 静止状態から一気に加速したケモノは既に小さくなっている。

 まさに目にも留まらない速度。これぞ〈神速〉。

 遅れまいとその後に続く。

むッ。

背中を見せて逃げるつもりか!

 こっそりと二人組で戦っていた奴に言われたくはない。

 声を無視して走る。

ええい、チビどもがちょこまかと。

邪魔だッ!

 背後で大地を穿つ大音がした。


 先を駆けるケモノの足は速かった。

 木々の間を速度を落とすことなくすり抜けるようにして走る。


 置いていかれないように必死に足を動かす。

 翻る肩の大袖が木に当たるのも気にせず駆け抜けていく。

 倒木を飛び越え、下草を踏み分けてひたすら走る。


 高速移動を可能にする〈神速〉は移動中も障害物を回避する動きの制御が可能だ。

 一方、瞬きの合間に踏み込む〈縮地〉は戦闘などで距離を一瞬で詰めることができる。


 〈神速〉が目にも留まらない速さだとしたら、〈縮地〉は瞳にすら映らない速度だと言える。

 だがその速度で動き続けることはできない。

 ある程度の距離を走るのなら〈神速〉は〈縮地〉に勝る。

 そのおかげで鶯色の機巧鎧と距離を取ることができた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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