第61話1 ザクザクと地面を削る音がする
文字数 599文字
ザクザクと地面を削る音がする。
背後では紅寿と翠寿が鶯色の機巧武者を引き付けてくれていた。
でもその必死の時間稼ぎも長くは持たない。
引きずるようにして足を前に出す。
敵を倒すことができる場所へ移動するために。
澪を背に乗せたケモノが走り出した。
静止状態から一気に加速したケモノは既に小さくなっている。
まさに目にも留まらない速度。これぞ〈神速〉。
遅れまいとその後に続く。
声を無視して走る。
背後で大地を穿つ大音がした。
先を駆けるケモノの足は速かった。
木々の間を速度を落とすことなくすり抜けるようにして走る。
置いていかれないように必死に足を動かす。
翻る肩の大袖が木に当たるのも気にせず駆け抜けていく。
倒木を飛び越え、下草を踏み分けてひたすら走る。
高速移動を可能にする〈神速〉は移動中も障害物を回避する動きの制御が可能だ。
一方、瞬きの合間に踏み込む〈縮地〉は戦闘などで距離を一瞬で詰めることができる。
〈神速〉が目にも留まらない速さだとしたら、〈縮地〉は瞳にすら映らない速度だと言える。
だがその速度で動き続けることはできない。
ある程度の距離を走るのなら〈神速〉は〈縮地〉に勝る。
そのおかげで鶯色の機巧鎧と距離を取ることができた。