第48話3

文字数 812文字

これからはこの方法で作られる人形が流行ると私は睨んでいます。

もう少し詰めていく必要はありますが、なるべく早いうちに販売できればと考えておりまして。それまではどうかご内密にお願いいたしますよ

 この制作方法に思い至るのは容易ではないと思うけど、世に出るまで秘密にしたいという気持ちはよくわかる。
自分の思い通りの外見にできるというのが本当なら素晴らしい。

このことは父上やイダに伝わっているのだろうか。

新しいもの好きなあの二人が話題に出していないということは知らない可能性が高いが……

 僕と宇頭さんの話を聞いていたのか、白糸様が真剣な表情で何やら呟きながら間仕切りの奥から出てきた。
それならば、この件を手土産に交渉をするのはどうだろうか。

勝算はあるか? いけるのならここはいくべきか……

どうかされたのですか
フブキ殿。

この件、父上はまだご存じないと思うのだ

でしょうね
だとしたら、こういうものがあったと父上のお耳に入れればお喜びになるのではないかと思うのだ。

いっそのこと私が一体注文をして完成した人形をお見せするでもいい

それは……きっと喜ばれると思います

 そして自分でも新規に注文を入れるだろう。

 それはきっと性だから逃れられないのだ。

その際、父上に一つ二つ無理難題を吹っかけても大丈夫ではないだろうか

 無理難題を吹っかけるときましたか。

 この美少年、外見に似合わず意外に肝の方も据わっていらっしゃる。

藤川様はこういった新技術には興味を持たれると思います。

ですがいったい何をお願いするおつもりなのですか

うむ……妹のホノカを操心館に入れてやりたいのだ
ほの香姫をですか。

ですが彼女には大切な役割があるのではないかと……

 既に藤川家の長女と次女は他家へ輿入れしている。

 こういった世界では婚姻関係を結んで国同士が安全保障を維持したり、家臣を一族に引き入れて更なる忠誠を得たりすることはよくある話だ。

 ほの香姫もその手札の一枚なのは間違いない。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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