第39話5

文字数 979文字

この勾玉は機巧姫にとって最も大切なものでね。

腕や足がなくなった程度なら修理できるけど、勾玉が壊れてしまうとそうはいかない

もしかして澪の機巧姫が直せないのはそれが理由ですか
察しがいいね
 茅葺さんの口角がくいと上がった。
この勾玉の色が機巧姫のすべてを決めるんだ。得意とする武具や戦い方、機巧武者の姿まで。

そして勾玉と同じ魂の色を持つ者だけが機巧操士になれる

じゃあ、不動が機巧操士になるにはどうしたらいいんですか
彼の魂と同じ色の勾玉を持つ機巧姫が現れるのを待つしかないね。

魂の色に影響を及ぼすことができればなんとかなりそうなんだけど……なんでこんな設定にしたんだか

 茅葺さんの口が自虐しているみたいに曲がっていた。
そういえばお城で誰でも機巧武者になれる噂があるって聞きましたけど
それな。事実かどうか情報を集めている最中なんだ。

僕なりに魂の色については研究していて、もしかしたらそのことに活かせるんじゃないかと思っているんだけど

 おお。それが実現したら不動はきっと喜ぶだろう。
水縹の修理が終われば澪も機巧武者になれるんですよね
そのことなんだけど、水縹の勾玉には歪みがあってね。

それは優れた腕を持つ須玉匠(すだまのたくみ)でなければ直せないものなんだ

須玉匠というのは?
神石から勾玉を取り出せる技術者のことだよ。

神木から人形の体を削り出して形にするのが人形師。その素体に化粧を施して人格と外見を与える者を化粧師。僕のような調律師はメンテナンス業者みたいなものだね

 つまりそれぞれの工程において専門職がいるってことか。
そこで君に頼みがあるんだ

 茅葺さんは小さな箱を手に取る。

 蓋を開けると柔らかそうな布に包まれたものがあった。少し彩度が低いけど明るい青色をした五センチくらいの特徴的な形をした石だ。

これが水縹の勾玉だよ。色が濁っているのがわかるかな
 手に取って光にかざしてみる。言われてみれば濁っているかもしれない。
僕は青藤の修理があって工房を離れるわけにはいかなくてね。

事情を書いた手紙の返事が来たら君にこの勾玉を持って須玉匠の所へ行ってもらいたいんだが……どうだろう?

わかりました。

その時は澪と一緒に行ってきます

助かるよ。

淡渕にもよろしく言っておいてくれるかな

 箱に入った水縹の勾玉を預かる。

 受け取りながら、なんだかゲームのお使いクエストみたいだな、なんて思った。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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