第39話1 どうぞ、入ってくれ

文字数 737文字

どうぞ、入ってくれ

 茅葺さんが使っている部屋には天井に大きめの照明器具があって部屋全体がほんのりと明るい。

 部屋の壁や床には仕事道具がずらりと並べられている。

 鋸やノミの他、サイズ別に並べられた刷毛、糸や金属の塊、異なる大きさの木材。どういう用途で使うかわからない道具もたくさんある。

今は青藤の君を修理しているから散らかっていて悪いね。

そのあたりに座ってくれるかな

 茅葺さんの腰かけた場所の近くにはパーツ毎に分けられた人形があった。それが青藤の君なのだろう。
直りそうですか?
頭部は半分ぐらい砕けているし、右腕は肘から先がない。それに胴体にはいくつも穴が開いていたけど大丈夫。

勾玉には傷一つなかったし、必ず直してみせるさ。

身を挺して主人の命を守ったいい子だからね

 仮面をつけているのに茅葺さんがほほ笑んだのがわかった。

 優しい手つきで青藤の君の頭を撫でている。

関谷は戦力が足りていませんから早く戻ってきてくれると助かります
そこなんだよ。

機巧操士っていうのはなりたくてなれるものじゃないのが厄介でね。

操心館に集められた全員がこの国にある機巧姫と顔を合わせたんだけど、新たな操士は生まれなかったんだ。

まあ、そんな簡単に機巧操士になれるならこういう施設はいらないんだけどさ

関谷にはそんなにたくさん機巧姫がいるんですか
藤川家が代々受け継いでいる天色の君と淡渕家の水縹の君を除くと、主なしは六人いる。

まあ、ほとんどが藤川様と井田様のものなんだけどね。

機巧姫は高価だから、すべての武士が所有しているわけじゃないんだ

高いってどれぐらいなんですか
安くても屋敷一軒分はするかな

 この世界の屋敷一軒ってどのぐらいするのか想像もつかない。

 現代日本のマンションなら数千万から億ってあたりだろうけど。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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