第27話4

文字数 594文字

ちっ、腹の立つ奴め。人目につかないようにこそこそと立ち回る! 

どうせそうやって一番手柄も盗んでいったんだろう!

 先に腹を立てたら負けなのである。

 以後、何を口にしようが風下に立つのは君だよ、梅園君。

 しかし我ながら肝が据わっている。こんな風に面と向かって罵倒された経験はないっていうのに、この冷静さ。まるで自分ではないみたいだ。

これはこれは。

東の砦を守る戦いではご活躍をされたそうですね。お噂はかねがね伺っております

お前などに名前を呼ばれたくは――
 誰もお前の名前など呼んではいない。
深藍の君には初めてお目にかかります。

私の名前は不吹(ふぶき)清正(きよまさ)。こちらが私の機巧姫の葵と申します。

以後、お見知りおきください

 四十五度前に体を倒した最敬礼をとる。気配で葵もお辞儀をしたのがわかった。

 さすがは僕の連れ合い(パートナー)。主のしたいことをよくわかっている。

くっ、この俺を無視するなど――
時に深藍の君の体調はよろしいのですか? なんでも敵機巧武者は五旗もいたのだとか。

指揮を執られていた広幡(ひろはた)様が負傷なさるほどの激闘だったのでしょう。

今は無理をされず、体調が戻られるまで安静にされるのがよろしいかと

 深藍の君は相変わらず薄ぼんやりした表情をしているが、どう対応したらいいのかわからないようだった。

 己の主の様子を伺っているが、主の方は彼女に気を配る余裕はない。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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