第22話3

文字数 693文字

それで僕の目的だけど――
この世の戦乱を終わらせることです
……その目的設定をしたのは誰?

 葵は初めて出会ったとき、僕に「戦って生き残らなければならない」と言った。


『とある小国にて一人の機巧姫と主人公は出会い、戦乱に終止符を打つべく立ち上がった……』


 ゲームの謳い文句として『カラクリノヒメ』でその文言(コピー)を書いたのは僕だ。


 関谷は小国だ。

 機巧姫――葵の君と出会った。

 そして目的は戦乱に終止符を打つことだと言われた。

 すべてゲームと同じ状況になっている。


 この世界のベースは『カラクリノヒメ』によく似ている。

 もちろん違うところもあるけど、それらの多くはゲームで設定されていなかった部分だ。この世界が破綻をしないように上手に補っているとも言えた。


 僕の懸念は、僕自身が知らないうちにこの状況に自分を引き込んでいるのではないかということだ。


 正直、ここに来たことはゲームクリエイターとして美味しいと思っている。

 この世界で見たこと、聞いたこと、体験したことをゲーム制作に反映したい。

 僕は根っからのゲーム屋だ。面白いゲームを作りたい。そのために調べ物をしたり、様々な作品に触れたりしてきた。


 ここでの経験は貴重だ。

 本を読んだりネットを見たり取材旅行に行ったりするよりも多くのことを僕は学び、体験することができるのだから。


 だからこそ前向きに目標に向かって取り組みたいと思っているし、望んで脇道に逸れてこの世界を味わい尽くしたいのだ。


 それが自作自演では興ざめだ。

 ワクワクした気持ちが霧散してしまう。

 そういった意味で保証が欲しかった。

 この世界は僕の妄想ではないという保証だ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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