第9話4

文字数 669文字

 澪に先導してもらいながら道なき道を進んでいく。

 動きにくそうな袴姿の葵は平気な顔をして森の中を歩いているけど、僕はギリギリだ。合わない靴で山道を進むのは思っていた以上に体力を消耗する。

はあ、はあ、はあ……
少し休憩しようか?
はあはあ……ごめん。

ありがとう

はい、お水。

ゆっくり飲んでね

 澪が手渡してくれたのは竹の水筒だった。

 栓を開けて口を湿らすようにゆっくり飲む。

ふぅ……美味い

 こんなに水が美味いと感じたのはいつ以来だろう。

 体を動かさなくなって久しいからなあ。

 さらに二口ほど水を飲む。

 飲み干すわけにはいかない。澪たちが飲む分だって必要だ。

ありがとう
もういいの?
うん。助かったよ。

葵は飲まないの?

不要です。

ですが主様のお気遣いは感謝いたします

あとどれぐらい歩くの?
もう少し……かな。

この先に転移できる場所があるからね。

本当にもう少しだよ

転移?

 もしかして移動の手間を省くためのシステム? それが事実なら助かる。

 ゲームではそういう設定はなかった。

 ソーシャルゲームの場合は、町の移動、国家間の移動、果ては大陸の移動まで、すべてマップを選択するだけで済むし。

 便利になっているのなら歓迎すべきだ。この設定を追加した世界に感謝したい。

このことは内緒にしておいてね。

私たちしか使えないものだから

私たちっていうのは……ああ、いいや。

詳しくは聞かないでおくよ。他言無用ね

うん。ありがと

 無理に聞いて後から面倒事に巻き込まれるのもなんだし、ここは見て見ぬフリをしておくのが得策だ。

 この先、必要に応じて教えてくれることになるかもしれないんだし。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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