三十九の四 サスペンデッド
文字数 2,754文字
おぞましい化け物がふたつの棍棒を乱雑に振りまわす。残りのふたつの手で俺をつかもうとする。右側のフェンスが大きく歪む。左側のフェンスもひしがれる。
俺は護符除けのために燃えるように熱い木札を、伸びてきた長い手に押しあてる。
異形の大ザルが手を引っこめる。空に向かい怒りの吠え声をあげる。棍棒をひとつ投げ飛ばし、四つの腕で握った棍棒を俺へと突いてくる。
俺は護符を握りしめた左手を、さらに右手で握りしめる。それを前へとかかげる。
巨大な棍棒を受けとめる。俺達を押しつぶそうとする力を……、押しかえす!
多足のおぞましい顔が壊れたフェンスを伝い近づいてくる。俺は木札を親指と人差し指でつまんで、多足へとかかげる。
護符を見て、大ムカデが無数の足の動きをとめる。
手長が足もとに漂う煙を見る。ついで多足を見た。
化け猿はひとつだけの目をさらに赤くして、棍棒を投げる。ぶつけられた大ムカデが地面に落ちる。
半身をあげて、大ザルへと毒牙を向ける。
その隙に俺は駆ける。ベンチの上に二人を横たえる。その前に立ちはだかる。
峻計の怒りの声に、二匹の異形さえかたまっている。琥珀は腹のあたりでスマホをいじっている。
俺は駆けだす。
琥珀がスマホを顔の前に持ちあげる。操作を完了させようとする。
画面をあいつへと向ける前に、小鬼の前で巨大な黒い光がさく裂する。……闇を飲むほどの暗黒の光。俺は立ちどまる。
(小鬼はリスクなど考えもせず、必死に俺達を守っていた。琥珀がいなければ、今だって俺達はどうなっていた? それなのに俺は見捨てようとした……。
とばっちりだ。自分への怒りもあいつへと向けそうだ。でも俺はこらえる)
それでも見えないあいつをにらんでしまう。
俺はわきあがる感情から必死に耐える。さもないと四玉ごとあいつを消滅させてしまう。
巨大な異形達が素直に従い、あいつの背後へもそもそと動く。峻計が俺をにらみながら指を鳴らす。
楊偉天の式神達が消える。
次回「届かぬ灯を求めて」