四十四の一 ファイナルカウントアップ
文字数 3,569文字
俺の声はどうしても荒くなる。
思玲は扇だけをかまえ、楊偉天達と向かいあう。
俺は屈み、横根の前へ剣を差しだす。
彼女の胸もとの珊瑚が濡れたように光る。
悲鳴のごとき祈り。
月神の剣に重みが増した。
俺は穢れが消えた剣を手に思玲を退かす。剣で風を受けとめる。
流範の突進は大型バイクを彷彿させた。転ばぬのが精一杯だった。
楊偉天は感心するけど、剣は俺の手から落ちる。……左腕がざっくりと切られていた。あふれだした血は、妖怪のくせに地面へぼたぼた落ちていく。痛みで手がしびれる。血は落ちたそばから消える……。
俺はポケットからスマホを取りだす。
彼女の顔にえげつない笑みがひろがる。それでこそ思玲だ。
深傷でしびれる左手で画面の隅のアプリマークを押す。どくろマークの11。
画面を奴らへと向ける。流範が楊偉天の前へと飛ぶ。
ゴワアアアン
とてつもない衝撃波が、画面から広角に飛びでる。おもわず目をふさいでしまう。……すぐに目を開ける。楊偉天達はいなくなっていた
思玲が扇をくわえ、剣を天にかざす。
思玲のかかげた剣が輝く。
彼女は深く息を吸い、両手で持ち直した剣を横根の手へとおろす。
寸止めされた剣の下で、横根の手が離れる。
小鳥がコンクリートに落ちる。俺へと飛び、服にもぐりこむ。
片羽根を垂らしたカラスが思玲を見あげる。
思玲が笑い、
思玲が剣を緋色のサテンに包む。俺に顔を向ける。
手順を言うぞ。
術が消えたら外の箱を開ける。そしたら剣を持ち、内の箱を開けるなりぶっ壊せ。怯えさせろ。
……今の川田には無理だが、今の哲人ならたやすいだろ。
人に戻っても狙われるなら、以後は魔道団を頼……やっぱり頼るな。でも若手連中ならブツブツ
彼女は箱へと剣をかざす。
俺の叫びなんかこいつは聞かない。剣からの光を浴びて、箱にかかった術が霧散する。
箱から朱色の煙が湧きたつ。彼女の体が術の煙に包まれる。思玲が剣を手放す。抗う間もなく、彼女の体が消えていく。
横根が涙の飲みこみ、強い顔で俺へとうなずく。
次回「吹きさらしの五人」