三十六の一 覚醒の始まり
文字数 2,012文字
峻計が七葉扇を胸もとにしまう。
タッタッタ
俺はドロシーを救うふりをして、あいつの首へと両手を向ける。峻計が至近距離で黒羽扇を交差させる――。
あいつのまわりを巡る劉師傅の護布が、俺へと移る。俺を守りだした緋色のサテンに押しとどめられ、漆黒の螺旋が目の前で破裂する。
俺は立ちどまらない。あいつは俺へと向かう。直感を信じる。
ついでに傀儡の術までほどきやがった。ドロシーがあいつへ印を結ぶ。
彼女の耳もとでささやく。彼女がうなずく。
俺はドロシーを抱えたまま、あいつへと突進する。あいつが仕掛けた護りの術が、あいつの体を攻撃する。ドロシーが俺に抱えられたまま、あいつの胸もとに手を伸ばす。
対の黒羽扇を斜め十字にかざした峻計が、なおも立っていた。
その布でドロシーを覆う。
峻計が構えをほどく。
背後から複数の気配がする。
俺は振り向けない。
彼女も力強く握りかえし、俺の目を見上げてうなずく。心がつながる。彼女は手をほどき俺へと護布をかけて、俺の背後に立つ。
背中合わせにドロシーが笑う。
次回「いずれは無敵」