四十三の四 陽炎の村
文字数 2,212文字
俺の言葉に、沈大姐は不愉快そうな顔を向ける。
……そんなことがありえるのか? 俺こそ知りたいが、もはや関係ない。
俺は巻きついたままの術の光をほどく。
沈は白猫の首もとをくだらなそうに見る。
(おびき寄せられて閉ざされつつある。赤い光に灯された周囲を見回す。
勾配に挟まれた空間にあばら家が五件。尾根上は縦にも左右にも広く、山道は整備されている。廃村なのに生活感を感じる。ここは獣人達のアジトか?)
夏奈もドロシーもだ。舞台のまわりを獣人達が囲んでいる。槍や弓を持つものもいる。狼とカラス天狗だけがいない。……藤川匠はどこだ?
俺は振りかえる。
小柄ですこし長めの茶髪。えんじ色のTシャツにジーンズ。どこにでもいそうな同年代の若者だけど、容姿はタレント……。俺だって忘れていない。
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