三十一 砂粒ほどの記憶
文字数 2,985文字
ジュニアチームの卒団式の打ち上げで生意気なことを言った俺を、「あの親父の息子が」と酔っぱらった指導者の一人が平手打ちしたのが決定的となった(お母さん達の大騒ぎにもなった)
(顧問に言われる。さっそく同じ一年が二人、上級生へと注進に向かう。先輩達と同じろくでもない奴らだった。
この年もやけに暑かった。顧問は午後の練習を中止して、自分の実家近くでのレクレーションを発案する。また車に乗り合わせる。川沿いの道を一時間も乗っただろうか、田舎を通り越して過疎地の村に着く)
支流の河原で俺達は水遊びをする。荒れたただの河原だ。サッカー部の一団以外に人はいない。
……足が浸る程度の水遊びなんて面白くない。本流は勢いがありすぎて近づけない。ここにまだ一時間もいないとならない。
みんなじきに飽きてくる。そしてまたいじめが始まる。俺は露骨にはいじめられない。かげで嫌がらせを受けるだけだ。
ターゲットになるのはいつも、もう一人の真面目な一年生だ
三年生がやってきた。追いつめられた俺を見て、腹を抱えていやがる。数人が石つたいに川を越える。二年の中でも下っ端と一年だ。こいつらだけじゃ怖くない。と思ったら、三年生のいわゆる幹部クラスが渡りだした。三月まで小学生だった俺から見れば、すでに大人の図体だ。俺は急いで逃げ道を探す。
この対岸から下流へは、巨岩が連なり進めない。上流に向かおうにも、やはり巨大な一枚岩だ……。横なら登れるかも。林に逃げて迷うぐらいなら、この川沿いから離れず逃げよう。
ここを突破したら、もう一人の一年生(おとなしすぎて正直気はあわない)を連れて、大人のところに逃げこもう。格好悪いし復讐も怖いけど、洗いざらい喋るしかない)
とてつもなく幸せな気分だったのに。
それに、あの和尚は今の世ではまともだ。お前を現世に戻し、あの者の手柄にしてやろうと思う。
来世にまだ行けぬが、お前も若いし、もうすこしそっちにいてもいいだろ? だから和尚を恨むな
代償に、成人となれば七難八苦も授けてやるがな。それまでは安穏に過ごせ。そのときが来たら立ち向かえ。逃げまわるな。それができぬ輩なら、そもそも放っておいたからな。
それと、もう滝には飛びこむな。ガハハハハ……
俺は、その日のうちに病室で目を覚ました。
砂のかけらほど授かりし力が、感情の暴発とともに正体をさらすときが来た。
次回「こんがらせいたか」