三十三の四 頼るべきは
文字数 2,207文字
ドーンが通用口の鉄柵から言う。
犬を追いはらえ、結界を壊せ、瑞希ちゃんに伝えろ。みんな私任せだし。
私はどっちかというと和戸君に賛成だけど、瑞希ちゃんが行きたいのなら、みんなで連れていってあげればいいって。小鬼はまだ無傷なわけだし、はやく思玲さんも守ってあげようよ
子犬の片側の目が光る。
涙目の横根がきょろきょろと俺を探す。ここだよと、俺は木札を左右に振る。
静まりかえった駅前通りへと向かう。
俺は念じる。俺の妖怪としての力に働きかける。
敷いたままの布団、床に置いたままのスナック菓子の袋、俺が仮眠中に川田が遊んでいたテレビゲームのコントローラー……。たわいもない日常が、すぐに帰ってくるはずだった部屋主を待ち続けている。窓には鍵がかかってないけど、人の作ったサッシは俺には重すぎた。
部屋に入るのはあきらめて振り返る。
暗闇に目を光らせる大柄な野良猫に声をかける。
(あてもなく劉師傅を見つけるなんて、俺には無理だ。桜井ならできるかもしれないけど、さすがにあの人の前に連れていけない。手負いの獣だかには横根を守ってもらわないと。
だとすると、そんな力がありそうなのは、生身のくせに結界を見抜き、あらゆるものと言葉を交わせる野良猫しかいない)
うす汚れて毛むくじゃらの猫が路地へと飛びおりる。
俺も細い道へと降りる。
野良猫が不愉快そうに鼻を鳴らし、了承したことを伝えてくれた。
フサフサが闇へと潜る。俺はその後ろに浮かぶ。
次回「座敷わらしとやさぐれ猫」