二十 出会った時を思いだす
文字数 2,464文字
朝から降り続いた冷たい雨はやんでいた。息はまだ白い。ダークグレイの雲が東へと去っていく中を、傘を片手に講堂からの人ごみにまぎれこむ。
俺がサークルに所属していいのか知らないけど、時計台の下に陣どるテニスサークルをとりあえず覗く。四年間も勉強だけじゃバランスが取れない。両立できなければ、やめればいいだけだし。
ベニヤ板に貼られた紙には、
4-tune
予防接種を受けて四六時中マスクをしていたのに、センター受験にあわせてインフルエンザになった俺へのあてこすりに感じる(弟が感染源)。ここはやめだと歩き去る。
後ろからぶつかられる。ここのサークルウェアを着て、女の子の腕を引いている。
背後でむっつりした声がする。目を向けると、でかい奴が立っていた。185センチぐらいあるうえに、がっしりした体格だ。
小柄でおとなしめな子はうつむいたままだ(後日、おもいっきり謙遜だと知った。基本を熟知した状態でコートに立つと、猫のような敏捷さでボールを追った)
ドン!
後ろからきた女の子にまで押されてよろめく。俺は振り返る。
鼓動が一拍割りこんだ。
あかの他人の俺に、笑顔で同意を求めてくる。俺は突っ立ったままだ。夏奈と呼ばれた女の子は友達へと顔を戻す。
もう一人を引きずってテーブルに座る。サークルの人間から歓声があがる。
なんだか堅苦しい奴だな。見た感じ、こいつも地方出身かな
夏奈という女の子は、上級生に囲まれて見えない。
面白い言い回しの奴だ。こいつもこのサークルに興味を示している(入部してみると、たしかにご無沙汰の動きだった)。
小柄な奴がプリントを手渡される。
俺は女の子の横でペンを持つ。覗き見る。桜井夏奈……、学部は違うか。
どよめきがひろがる。賞賛を受けることだったのか。
俺のそっけない返答に、さらなるどよめきがひろがる。
でかい奴が立ったままで記入しだす。川田陸斗と走り書きする。
俺は席を立ったところで小柄な女の子に気づく。大きめなカバンを抱えて、きょとんとしている。目が合うと小さく笑う……。
女の子が俺を見上げたあとに椅子へ座る。
みんなそろって活動の説明を受けて(部費は妥当なところだろうか)、今日はなにもないと言うから立ち去ることにする。
先に去っていく桜井達の後ろ姿を見おくる。
想像していたとおり、4-tuneはほどよくいい加減なサークルだった。友を与えてくれたのだから、それだけで充分だ。
次回「雨あがりの旧街道」