十五の一 雷と轟音と朝日
文字数 2,886文字
カラス達はまだ上空で旋回している。様子をうかがっているようだ。やがて二方に分かれてフェンスに降りる。一羽でいるのがカンナイだ。俺もようやく小学校にたどり着く。
『か弱き妖精よ。お前が頼るものは果たして強いか』
図書館からの声が追いかけてくる。人の窮地につけこむいやらしい声だ。気分が悪くなる。
奴らの真ん中にいる俺に気づくことなく、カンナイが滑るように屋上に降りる。前後左右上空を警戒しながら貯水タンクの下へと向かう。
『窮地なのだろ』
『無視は精神衛生によくないぜ。離れたとこに声かけるのはしんどいんだよ』
使い魔どもの声声を振りはらうようにカンナイへと突進する。触れもせずにふわりと横へ流される。カンナイは気づきもしない。
ハシブトガラスが暗闇に声かける。その頭をぽかぽかと殴る。手が滑るだけだ。
奥からの声に、カンナイがはっと振り向く。すぐ背後の俺に気づかず、その先を眺める。
一羽が降りてきた。ぴょんぴょんと跳ねて近づく。
仕方なく木札を懐からだす。
ゴウオンと呼ばれたカラスが木札をつつく。
くちばしをいきなりひろげる。あわてて手を引っこめる。
『頼りの札もその有り様。キキキッ』
木札を懐中にしまう。
ゴウオンがタンクの下に向かう。
俺はゴウオンに飛び乗る。押しつぶせはしないが、ずり落ちるまでぽかぽかと頭を殴る。
ゴウオンがフェンスに戻っていく。入れ替わりに、ヂャオリーと呼ばれた雌カラスが降りてくる。慎重そうにそばまで来ない。鎖と有刺鉄線で厳重に閉ざされた鉄柵の門にとまる……。
背後から体当たりする。ふわりと流される。
ゴウオンがフェンスから言う。
『力は足りず助けもいない』
『だからこそ、ここへ来い』
胸の中でお札が発動する。すんでのところで、まがまがしい奴らと交渉せずに済んだ。
充分に力があるカンナイが隙間に顔を入れる。俺はご機嫌斜めな木札を取りだす。
カンナイが跳ねあがる。鳴き声をたてながら空へと逃げる。
ドーンもひょこひょこでてくる。当然のように俺によじ登る。
はじかれたように落ちる。カラスが黒目をむいている……。
まだ機嫌が悪い木札にやられたようだ。しかもカンナイよりダメージを受けている。頬でも叩いて起こしたいが、とどめをさしてしまうかも。
ひっくり返るカラスのもとに着地する。頭の羽毛をくわえるなり、おもいきり引っぱる。
悲鳴をあげてドーンの意識が戻る。
カンナイの指図に一羽がふわりと飛ぶ。入口の有刺鉄線の上に軽やかに着地する。
ドーンはうつろな目でハシブトガラスの飛行を追っていた。
カンナイが降りてくる。風と一体みたいだ。
ドーンはくちばしを開けて見とれている。
俺は札をかかげて小鳥にかぶさる。でもインコはすり抜ける。
ハシブトにタックルかよ!
カラスは鋭角に空へ戻る。インコは地面に落とされる。
カンナイが空中で体勢を整える。
俺は二人をかばい、木札を空に突きだす。
カンナイは護符を恐れることなく飛んでくる。俺は木札ごとふわりと飛ばされる。
二人へと目を戻す。どちらもまだ無事だが、
桜井が空へと上がる。
ヂャオリーが羽根をひろげる。
鉄門の上でゴウオンが笑う。
カンナイが空から告げる。
次回「褐色の翼」