三十三の三 奈落へ誘う声
文字数 1,993文字
『兆勝こそ災難だったよな。人ではない力をもつ娘を、人間からかばったのだからな。
そして、それは新天地でも』
『梓群~。ドロシ~。両親は両方で呼んでいたよな。
暴動の夜、お前に石を投げる人間の前でも。
記憶からも記録からも消されたあの夜。
お前は何人殺した?』
俺はそれしか言えない。サキトガはやめない。
『ロタマモが地獄の知り合いに聞いたらしいぜ。
あの二人は、火にあぶられながら恨んでいるってな。
いまも娘を恨んでいるとな』
彼女が嗚咽する。俺はうずくまる彼女の肩を抱く。怯えが伝わる。奴らの好物の……。
闇に怯えながら俺の手を引いてくれたドロシー。
赤い闇のスポットライトが、彼女と俺を照らす。
ドロシーが顔をあげる。俺の目を見つめる。
赤い闇さえ笑う。
コウモリがまた姿をだす。
襲ってきたサキトガをカウンターに殴る。奴の爪はかすめただけ。時間差で肋骨が絶叫する。胸を押さえる。
サキトガが天井に浮かんで消える。
もう一度こっちに来い。
赤い闇が揺らぐ。
見えない魔物に命じる。返事はない。あいつが去ったかなど、分かるはずがない。まどわされ続けるだけだ。
次回「残酷な癒し」