一の二 女子二人は石段で待っていた
文字数 2,202文字
何度もこまかい説明したくない。
滑りどめの私大からの、受験の成績を考慮した若干名は入学費と一年次の学費が免除となり、その後の成績次第では二年次以降もという話に乗っただけだ。確定(妥協)した三月何日時点で条件のよさげな下宿先はなく、郊外のアパートから通学する一人暮らしが始まっただけだ……。
実質特待生だけど、まじめにやっているぶんには思ったほど拘束はなかった。だから今ここで、こいつらと並んで歩ける。
石段の日陰に並んで座り、彼女達は待っていた。夏休みも開いている図書館なら涼しいだろうに、桜井がクーラーを苦手だからかな。
桜井は紺色のTシャツに白色のチノパンといつものような恰好で、変わらず明るめのショートヘアだ。
三石の予告通りだ。木箱を膝の上に乗せている。大きめな弁当箱ぐらいのサイズで、想像していたより小さい。
スマホをいじっていた横根が俺達に気づく。笑みを浮かべて小さく手を振る。空色のワンピースがよく似合う。
ぼうっとしていた桜井も目を向ける。軽く見まわし、
抑揚のない声で言ってくる。
……この一年数か月彼女の顔をちらちら見てきたが、能面みたいな表情は初めてだ。それでいてきれいだ。
視線を感じて我に返る。横根は不安げな表情を向けていたが、目があうと顔をそらす。……冷静に考えれば、あきらかに桜井はおかしい。
俺の問いを無視して、感情の伝わらない桜井が横をすり抜ける。
キャンパス内のチェーン店は夏季休業だった。オープンカフェの席を三人に確保させて、俺とドーンがすこし離れた自動販売機で買い出しをする。
財布を持ってこなかった川田が言う。
桜井は抱えていた箱をテーブルの真ん中に置く。……彼女の言動が乗りうつったかのように、ふるびた木箱が怪しすぎる。
俺は不安になって桜井の顔を覗きこむ。すごくきれいだけど正直怖い。そんな態度がおもてにでて、傷つけ嫌われたらなんて心配する……。
ドーンと川田が顔を見合わせた。
次回「お前を置いて帰らない」