七の一 異形な烏合
文字数 2,474文字
本堂脇の母屋から住職が顔をだし、怪訝そうに空を見あげる。カラス達が一斉に鳴き声をあげ、人間は不快な顔で引き戸を閉める。
第二波が来た。
五六羽が雁行の型で降りてくる。至近に来たカラスへと石を投げる。くちばしではじき返しやがる。そのくちばしを避ける。
頭をうしろから蹴られた。横から来たカラスが、ホバリングで乱れ蹴りしてくる。
箱を守るどころではない。俺は転がるようにふわりと逃げる……。ふわりと?
第三波の攻撃を浮かびあがって避ける。
カラス達が一斉に襲ってきた。空中で蹴られ、つつかれまくる。こいつらのがずっと素早い。
目のまえに巨大なくちばしが見え、反射的に手で顔をおおう。
俺は地べたに突進する。カラスがカカカと去っていく。着地したところを、別のカラスに蹴られてつんのめる。目を守りながら上空を見る。また低く旋回している。
ぷすぷすとした音にカラスが笑う。潰れている。昨日思玲がバッグに押しこんだときにだ。
俺は手水舎に飛びこみ、桶と柄杓を手にする。桶が盾で柄杓が剣だ。
飛んできたカラスの頭をタイミングよく叩く。こんなので追いはらえるはずがない。
空へと戻ったカラスが憤慨する。ほかのカラスはうけていやがる。
俺は桶と柄杓を上へと振りまわしながら、箱を足で押して手水舎へ運ぶ。おとなの力でも重かったのが子どもでは――、意外に押せる! 小さくなっても妖怪だから力は差し引きゼロぐらいか。
一羽が目のまえに置き去りの四玉の箱をつつく。
強烈な痛みに、俺はよろめき転ぶ。くちばしに刺された首を押さえ振りかえる。水鉢の縁に一羽がとまり、鳥のくせになにかを咀嚼する。
それを飲みこむ。
俺は広場に飛びだし叫ぶ。
地面に落ちた血も消えていく。人に戻れば傷はなおると言っていた。四玉を怯えさせて、人に戻らないと。
カラス達が一斉におりてくる。ようやく布がほどけた。木箱のふたをどかす。
青錆びたふたをかかげ、カラスの突進を阻止する。そいつは囮だった。
背後から数羽にのしかかられ、俺はうつ伏せられる。
ふわりとでてきた黒い光が怯えたように玉へと戻る。
カラスが傷口をさらにつつく。
(また連中がかたまり襲ってくる。俺は首の傷と目をかばい、地面を転がり箱へと戻る。その下にあるサテンの護布を引っぱる。ドーンが四六時中かぶっていたのに意味があるはずだ。なのに布は引きずりだせない。おとなの思玲の体重が邪魔だ)
背後の気配に地面を這い逃れる。一羽が地面で待ちかまえていた。くちばしから目をかばう。
次回「夕焼の霹靂」