四十五の二 漆黒の憎悪
文字数 2,893文字
…反応しやがった
(最初の黒い螺旋は藤川匠へと向かった。月神の剣で受けとめるが、体は大きく飛ばされる)
(二発目の光を、ドーンは高く飛び逃れる。漆黒の螺旋が陽炎を揺らす)
(峻計の三発目の螺旋はひときわ大きく、横たわる藤川匠へと再び向かう)
(獣人達が盾となり受けとめる。獣人達がはじけて消滅する
サキトガが驚愕する)
『新月の力かよ……。
匠様、念波で追えないですからご注意を』
峻計、そいつらは仲間だよ。…でも気にいらないから、やっちゃえ
(再びの黒い螺旋を、起きあがった藤川匠が剣でかばう。飛ばされて樹木に激突する。うずくまり動かない)
巨大な稲光がすべてを照らす。
バリバリバリッ
結界を揺らす轟音。
楊偉天が杖をだらりとおろす。
突風。土壁が空を恐れる。毒など平気な面だった狼さえも闇空を見上げる。
(夏奈……
俺はまだ声をだせない。すべてを見せられるだけだ。
大粒な雨が叩きつける。くすぶり続けた火災が消える。陽炎の結界が揺らいでいる)
ゼ・カン・ユはあざとい男。力が戻れば、まず老祖師を殺します
峻計は空を気にもとめない。獣人達の生き残りが藤川匠を囲む。残りは十体を切った
思玲はいずこ? 松本と梓群は……。足もとの鳳雛窩ですか?
(俺は姿隠しもかけられていたのか。見えない峻計が見えない俺をにらむ。
楊偉天が杖をかかげる)
楊偉天が杖をおろす。朱色の光が一点で炸裂して、峻計の結界を消しさる。
漆黒のチャイナドレス。稲光はあいつの醜く裂かれた顔面もさらす。
(雨に打たれた老人の息が荒い。胸もとの鏡が狂喜のように揺れている)
『匠様。呼ぶしかないですよ。
この鴉は、フロレ・エスタスに倒させましょうよ』
(ふざけるなコウモリめ。俺の怒りは頂点なのに、楊偉天の結界を破れない)
え?
(俺は開かない口で叫ぶ。鏡に彫られた魔物が、ちらりと俺を見る)
(……龍を倒す者が持つ純度100の白銀弾。夏奈が来るのならば、もはや彼女を呼びかえしてはいけないのか。ならば)
砕け!
(砂粒ほどの力に命じる。結界はひび割れるそばから増殖していく)
ゾワゾワ
(……誰の声だ?
頼れるのは、やっぱり閉ざされたままの彼女だけ)
サキトガよ。こいつはカラスではなかったよな。ずいぶん昔に会っているな
人をたぶらかすしか能がない夢魔……、人の邪念を吸いすぎて肥大化した夢魔だったよな?
(藤川は口もとの血を手の甲で拭き、峻計を見つめる)
そうかもしれない。貴様達に捕らわれ辱めを受けた、さもない妖魔だったかもな。
ゼ・カン・ユめ。昔の面影が残っているぞ
??
(峻計は両手の黒羽扇を交差させようとして、思いとどまる)
老祖師。この男はあなたを殺します。どうか処刑の許しを
老人は汚物を見る目をあいつに向ける。その手にふるびた書が現れる。
峻計……、夢魔……。
お前も記されたぞ。……なんとな。鏡の導きをゆがました魔物とな!
(鏡に閉ざされた魔物は空を見ている。龍も不死身の異形も来る。サキトガがカウントダウンしなくても分かる。もうじきだ。
夏奈。みんなを思いだして。心で祈る)
楊さん、予定より早くても儀式を始めましょう。ゆがみがひろがる前にね
(闇が意気消沈する。
俺の横へと連れられた露泥無は、なおも横根と四玉の箱を覆っている。俺にはなにもできない)
ヒヒヒ、藤川よ。無死を倒せるか?
興奮した奴は儂の言葉に従わぬかもな。あれがいれば儀式など始められない
カカカ、ナイススティールじゃね?
て言うか、哲人はどこ?
(風は迦楼羅であるドーン。上空で笑ってやがるが、空にはなおも竹林がいる。気をつけろと声にだせない。
峻計が対の扇をかかげた)
(落雷にさらされた横根とドーンが力なく落ちてくる。サキトガも地に落ちる。結界が溶けた竹林だけが浮かんでいる)
ドーン……横根……
夏奈……
(陽炎が上空まで囲む。嵐をふせぎ、幾多もの落雷を跳ねかえす)
(鏡の魔獣から狂喜の炎がほとばしる。老人がその反動で後ろに転ぶ。峻計が蜃気楼と消え―、消えながら燃やされる)
夢魔。お前が怒る理由は分かる。
何百年前だろう。あの時から、お前が望むものも分かる
(奴が抱えるだけで、薄らいだサキトガが復活していく。峻計は燃えたまま仁王立ちしている。それよりもドーンと横根…………)
ちがう……、サキトガだろ? こいつはいまだ弱っている
(彼女の声はどこからだ? 決まっている!)
ドロシー!
老人は喘いでいる。貪は笑っている。コウモリは逃げ場を探っている。
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