二十八の一 ゼロから始まるナイトライフ
文字数 3,429文字
(絶望的だ。やっぱり、あいつから箱を取りかえさないと。
無理に決まっている。生きたままで八つ裂きにされるだけだ。
まだ一日近くある。もう二十一時間しかない。
なにか考えろ……。絶対に浮かぶはずない。それでも考えろ。さもないと、みんなの人の心がなくなる。俺は一人、異形としてさ迷うことになる。しかも心が残ったまま……。
どん底ぎりぎりの動揺を抱えて図書館へ向かう。
羽音が遠ざかる。
当事者がでてきた。なかへと会釈をしてドアを閉める。
絶叫にも彼女は気づきやしない。スマホで電話しながら正門へと向かうだけだ。
彼女の前で人の言葉を発しようとする。
俺は片手でつかまれ、アスファルトへと叩きつけられる。地面に接する直前にふわりと逃れる。
鬼は横根へと飛びかかる――。
小走りの横根は、鬼の手もとからするりと去っていく。
横根が背後の気配に感づき振り返る。
怯えたように走りだす。鬼が埋もれていた案内板の先端を彼女へと振りかざす。
俺は黄玉へと体当たりする。ふわふわとではなく砲弾のように……。
鉄筋の壁にぶつかった衝撃だ。
手もとがずれて鬼が怒鳴る。中空にくらくら浮いているのを捕まりそうになり上空へ逃げる。
黄玉が俺へと案内板を投げる。ロケットみたいに飛んでくるが、目測は大きくはずれた。避けるまでもなく校舎に飛びこむ。
鬼は逃げるように横根を追う。俺は鬼を追いかける……。
鬼を上空から追い越して急降下する。顔面に蹴りを入れる。
ゲーム的発想で二本のツノを引っぱる。
鬼が横根を追い抜き、両手をひろげる。
彼女に覆いかぶろうとして横にしりぞく。
鬼が片鼻を押さえ、俺へと鼻水を飛ばす。あやうく避けられたが、あんなのが当たったら黒い光よりトラウマだ。
鬼が両手を口の前にあわせる。
(あまり役に立たない情報だった。ただ思玲やドーンには悪いけど、やはり珊瑚の玉が鍵を握っている。とはいえ彼女の胸もとにかざしたところで、浮かぶ木札にパニックを起こすだけだろうな。それに……、今は珊瑚も邪鬼除けなだけだろう)
次回「座敷わらしと隻眼の狼」