四十一の二 夜咲く妖花
文字数 2,175文字
それはそうと、あの香港娘は逃れようのない罪を犯した。
幸いにも、どちらの世界の記憶も残していられるのは――、そんな化け物の人間は思玲と沈大姐だけだ。彼女の祖父でさえ、すでに孫の存在を忘れているだろう。
松本には繰りかえすけど、忘れられたまま消え去るのが、あの娘にとって最善だ
あの鏡には明の時代に暴れた龍を封じてある。いわゆる貪だ。
青龍など比較にならない邪悪にして醜悪なドラゴンだ。当時の魔道士が力を結集させて、なんとか抑えこんだらしい。だから、あの鏡には魔道士の力がたっぷりと入りこんでいる。
そんな鏡は私などに扱えられない。あのジジイだからこそ、その力を小出しにできるわけだ
端折り過ぎだけど……
(古来の力が結界を作り、ダミーの老人を作り、導きを差しだしたというのか。そして封じられた龍から波動をださせる……。力を小出しにした結果、鏡の力は弱まっていくのなら、いつか龍はめざめるかもしれない。
思玲が真っ暗な空を見上げる)
(横根の目の色も変わっている。
横根は露泥無にぼろくそに言われたよな。自分の身代わりに魂を奪われた人がいれば、彼女はひとりでも向かう人間なのに……。
甘えているから激情する。横根の気性に一抹の不安が残る。前回は、ただの白猫が無謀なことをして一度死んだ)
しかも新月だ。
あの魔物を討伐できる可能性はゼロだし、僕は完全なる闇になっても殺される可能性がある。つまり今夜は君達と行動をともにする必要はない。
傍から眺めることさえ危うい。ましてや老耄と化した者がハイイロクマムシの封印を解いたとなればね。
君達が生き延びられたのならば、明け方に会えるだろう
ドーンがぼそり言う。俺はまた首を横に振る。この四人だけじゃない。もう一羽いる。
次回「翼の四人」