五十の二 闇冥を灯す人

文字数 1,916文字

う、うーん
琥珀
はい
(横根が目覚めかける。小鬼が手から気絶の光を飛ばす)
新月の夜ならばこれくらいできる
……。

(琥珀はドヤ顔ではない。

 川田はなにか言いたげだが、横根に記憶がないのならば空高く狼に抱かれた状態で起こすわけにはいかない)

九郎、聞け
へい
お前は韓国に飛べ。

『楊は張麗豪と同士討ちして死んだ』とキム老人に伝えてこい。とどめを刺したのは峻計とも言っておけ

(楊偉天に致命傷を与えたのは……、俺の独鈷杵と破邪の剣になるよな。罪悪感がないと言ったら嘘になるけど、夏奈の寝顔を見ると正しいことをしたと信じられる)
……。
パタパタパタ
(ペンギンが思玲の前に来て羽ばたく)
あの方に嘘をつくのですか? バレたら怖いじゃ済みませんよ
ならば『親分が殺しました』と伝えろ。お前は白虎の朝餉だ


琥珀

はっ
九郎だけだと不安だ。お前も同行しろ。

それが済んだら台湾だ。婆やに諸々の件をお前の口から説明しろ

…酷使。ブラック雇用主
かしこまりま――
(琥珀は一瞬安堵を浮かべるが、)
私がいないと避雷針を使えませぬが
哲人に持たせておけ
…………御意


くるっ

(神妙に答える。俺に生意気な顔を向ける)
今回も思玲様の顔でロックを解除できる。

レベル11も同じ場所にある。

避雷針モードに設定してあるからいじるなよ。

先ほどの雷術のおかげで充電は250%だ。

500を越えたら放電しろ。

プライベートなデータはアクセスするだけで自爆するからな。

代わりに天珠をよこせ。


雅は思玲様をしっかり守れよ

私に指図するな
では行ってまいります
うむ
(早口で並べて、九郎に抱えられて西へと消える。思玲と琥珀は用件しか話さずしまいだった)
う~ん
……松本
(横根がまた寝返りをうつ。目を覚ましそうだ。このスマホにしびれの術は内蔵されていない)
風軍、どこか降りよう

(そう言って眼下を覗く。山麓にあるのはゴルフ場だな)

あそこにしよう

(五人の記憶が消えても遭難はしなそうだ)
木霊もいなさそうだな

 思玲も同意する。












大ワシが滑空して真っ暗なフェアウェイに着地する。それぞれが翼から降りる
神奈川だ
(ドーンが看板をチェックしてきた。相模のゴルフ場か。ここで忌むべき世界ともお別れできるのか)

そっと芝生に

グーグー
哲人、背荷物を渡すぞ


お前のスマホを寄こせ。大蔵司を呼びつける

(女の子は空いた手を伸ばす。

深夜の極みに起こすつもりか。大蔵司にとって幸いに、俺のスマホは消えている)
俺が人に戻ってから奪いとってよ…………
 俺はリュックを開ける。開けるなり身震いする。
コンチハ
ドロシー、輪っかをだして。箱に触らぬようにね
ズリ…ズリ…
(ドロシーが足を引きずりながら来る――)
はい……
……なんで私が触ると白銀は光るのかな、ほんとにやだな
ひい……

(彼女が手にした冥神の輪は異様なまでに輝く。俺は後ずさりしてしまう)

洒落になんねーよ
ドーンと小さくなった風軍は逃げだす
……。

……。

人に戻ったら、君の記憶は消える。私には君の記憶は残るのに
(白銀色に照らされながら、ドロシーが俺を見る)
私とは他人だ。さっきみたいに怯えて私を見るんだ。そしてあの人間だけを見るんだ
 
……。
チッ
(龍を倒すべき存在が泣いている。思玲が舌を打つ)
ホオズキは日本では鬼灯と書く。死者を導く明かりらしい
……。
(少女はドロシーからリュックを受けとる)
私どもと似たようなものだ。哲人、始めてくれ
(思玲の例えは分かったようで分からない)

……。

……。
 ……彼女といると無敵に感じられた。
“いつか私も人の世界に帰して”
(ひんやりしたお堂でドロシーは言った。

 俺だけ戻っていいのだろうか?)

こんな光に怯えるの嫌じゃん
(カラスがどこかで騒ぐ)
哲人、始めようぜ
(ドーンの導きがおそらく正しい)
ちょっとずつ壊してみる
……。
(弁解のように誰にともなく伝える。あいかわらず箱は重いけど、大人の異形だから金属の箱を外にだせた。ここに大人である思玲が閉じこめられている……)
…ジリジリ
(玉をだすべきか? でも、この蓋を開けると横根は白猫になる。夏奈は龍だ。気が変わり藤川匠を求めるかもしれない。ちがう。青い光は触れないとやってこない。だとしても、また夏奈は玉に触れようとするかも)
お前は迷いすぎだ
(思玲が用心棒とともに俺の前に割りこむ)
私がやる
(少女が天宮の護符をかかげる。護符は輝かない。

 舌を打ち背伸びして、天を突くようにかかげる)

無理っぽいな
(思玲が振りかえる)
聞き流していいが、代案を言わせてもらうぞ。私も川田も今の姿のままで――!!!
雅!
(思玲のかかげた護符が金色に輝く。それを天へ投げる。蒼き狼が宙に跳ねる。護符も狼も結界に跳ねかえされる)
(空では異形がうねっていた)



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