三十九の三 しこしこバコーン
文字数 4,041文字
ばかでかい顔に触角を震わせ、長い牙を俺達に向ける。
パチン
そう言っていた。
手長が牙をだして夜空に吠える。俺は後ずさる。
ようやく老祖師と連絡が取れたからな。あのお方は劉昇を抑えているからな。誰もお前達を助けに来ないぞ。
復活した焔暁さんと竹林さんには思玲をあぶりだして欲しかったのに、声だけかけて飛んでった。だから先にお前達を始末しに来た。
青龍、逃げられないぞ
黒い光がいきなり現れて、琥珀へと向かう。小鬼はふわりと避ける。たまたまだろうか、
口から紫色の煙をまき散らしだした。手長が鼻をふさぎ、ムカデへと抗議の吠え声をあげる。
桜井が甲高い鳴き声混じりの絶叫を、横根の耳もとでする。
ドーンが俺の頭から落ちた。腹を上にして凍ったように動かない。
俺経由で邪悪な力を受けたのか。俺はドーンを救うべくしゃがむ――。頭上をなにかが通りすぎた。
後頭部にとてつもない衝撃を受けてつんのめる。
パチン
にらみあっていた巨大な異形も、その音に反応した。多足がガサガサとフェンスを横に這いだす。手長も俺達へと赤い一つ目を向ける。
手長が咆哮をあげる。長い手を伸ばして、俺達へと棍棒を振りおとす。俺は眠る横根へとのしかかる。別の手に持つ棍棒に横から殴られる。
俺だけ吹っ飛ばされ、管理室に激突する。
長い手の長い爪が迫ってきた。俺は転がるように逃げる――。手長の別の手が横根へと棍棒を振りかざした。
でも異形の大猿は後ずさる。
意識のない横根とドーンを、地面に漂う紫色の煙が薄く包む。
桜井が横根のもとへ飛ぶ。彼女達へと鎌首をもたげた大ムカデと、小鳥がにらみあう。多足が桜井へと触角を動かす。
手長がまた吠える。煙のない場所から手を伸ばし俺を握る。
琥珀が俺へとスマホをかざす。
桜井の気配がどよめいた。見上げると、大ムカデが対の毒牙を俺達に向けていた。鎌首をおろす。
俺は横根を抱きしめる。
人の足ほどもある牙が真横の地面に突き刺さる。
多足の顔にめりこんでいたコザクラインコが空へと戻る。
さすが桜井。俺も不気味な顔に護符の拳をめりこます。大ムカデが声もなく暴れだす。青光りする長い胴体がフェンスを叩き、その顔が俺をはじく。
俺は地面にころがる。
桜井の怒声に、飛んできた黒い光をかわす。
俺は化け物達に背をさらす。
ぐたりとしたカラスを持ち上げる。横根は?
峻計はなおも姿を見せない。いらだちだけが聞こえる。
俺は師傅を真似る。妖怪が人をカラスごと抱き上げる。護符が発動しているからか、横根の体がびくりとする。珊瑚があろうと長く接するのはうまくない。俺はコートを背にカニ走りする。
桜井が降りてきて、トーンを落として言う。彼女を見たからか、手長が毒を気にせず近寄ってくる――。
その股間をくぐり、黒い光が青い小鳥へと放たれる。桜井は上空へとたやすく逃れる。
琥珀が宙でスマホを俺達に向けた。画面から、波動がどよめき襲ってくる。
次回「サスペンデッド」