七の三 リュックサックとタクトスティック
文字数 2,902文字
(王姐とは思玲で、仲間とはシノとアンディだろう。救ってもらった身で言うのもなんだが、この女は絶対に勘違いしている。あの女の子が強いはずない。
つまりドロシーは、思玲が術も使えぬ少女になったことを知らない)
俺の言葉に、ドロシーは横に首を振る。
俺は地面に腰をおろし、箱を護布で包む。
(焔曉は抜け殻になったと言っていた。魂が抜け落ちたことを意味するのなら、一羽はもういないのだろう。とにかくあの五人で集まらないと。そのためには、この女をまかないと。
四玉の箱を持ち上げる……。無理だ。妖怪であろうがさすがに重い)
つっけんどんに答えると、彼女が息を飲んだ。
ドロシーが小ぶりな棒を振るい宙に術を描く。指揮されたように、四玉の箱がすーっと浮かびあがる。
箱はまたたく間に山門を超え、天高く浮かび上がる。小さな点になり見えなくなる……。
あんぐりとする俺の横で、ドロシーが指揮棒を空へと威勢よく振るう。小さな赤色の点になった箱が、みるみる落下してくる。
彼女はリュックの口をひろげて待ちかまえる。
隕石のような勢い落ちてきたそれを、俺の脳天すれすれでキャッチする。腰が抜けかけた。
彼女が俺の手を握る。
台湾の内紛の巻き添えで先輩達が死んだ。
平常時業務に小鬼ちゃんが契約していた流れで、私が王姐に連絡した。彼女と小鬼の話が一致して、手助けすべきだと思った。
でも十四時茶会に報告したら、『思玲の目を見て判断すべき』と決議した
それを王姐に伝えた。
『貴様達の手助けなど無用。我々に関わるな』と返事が戻った。
それで『香港に連行して尋問』と十四時茶会が決めた。
ケビンとサポートにシノが選ばれた。私も志願した。妖怪変化がいまだたむろする国に行くためにね。
アンディも手をあげた。でも、ここまで来てケビンだけ召還された……。
ふわりと前へ進む。それだけで首と背中の傷がずきずきする。
着信音がして、ドロシーがうんざりとした顔になる。リュックからスマホを取りだす。
次回「子どもだけど純粋ではない」